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キンキンに冷えたジョッキとお通しの板わさが届くと、隣に座る彼も飲んでる途中のビールを持ち上げる。
「乾杯しましょ。」
「何にですか?」
「思いがけない再会です。」
今度は満面の笑みだ。目元が三日月みたい。綺麗な顔立ちだから、攻撃力がすごい。なんというか…素直な子なんだろうな、きっと。
ジョッキ同士を軽く合わせて、泡を気にせず一気に飲んだ。
「ヤマちゃんさん、昨日はほんとにすみませんでした。なんか舞い上がって、ひとり大騒ぎして。あの後、ヒロさんにすごい説教くらって…。」
「…お酒の場ですからね。ご自身が楽しめればいいんじゃないですか。でも、周りを見ながら節度を持てると、もっと楽しいかもしれませんね。」
「反省してます。…反省してたから、今日会えたのかな?もう、しばらくヒロさんとこには来ないだろうし、一生会えないかと思ってた。」
一生って。確かに人は多いけれど、さして広くないこの街で?私も彼も行動範囲や動向が被っていそうだから、そのうちまた顔を合わせていた可能性は高いだろうに…、と思いながら口には出さず、代わりにビールを運んだ。
「今日は雰囲気違いますね。」
「休みです。この前と昨日は仕事帰りだったので。」
「あ、お仕事…。」
「土日休みの会社員ですよ。」
「…教えてくれるんですね。」
「反省、していそうだから。」
「今日の俺は大丈夫ですか?」
「や、昨日だって別に…。ごめんなさい、昨日は私も失礼でした。大人げなかったです。」
これは本当。別に彼の態度に物凄い失礼があったわけじゃない。あの勢いで距離を縮めて上手くいくことだってあるんだろう。
昨日の私に受け流すキャパシティがなかっただけで、彼だけが悪いわけじゃない。
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