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m'04
(…おいしい…。)
お箸を片手に笑みがこぼれる。まずい、一人でニヤケてたら不審者だと思われるかしら?でも美味しくて幸せな時間を満喫していると、自然にこの顔になってしまう。
堂本が教えてくれたお店はどこも大当たりで。今までのお店探しは口コミサイトに頼りきりだったけれど、実際に足を運んでいる人に、好みを伝えて相談する方が間違いんだろう。
お客さん同士の交友も、当たり障りない程度にしてたけれど、もう少し踏み込んでみてもいいのかもしれない。
そんなことを考えながら、一番顔なじみが多いヒロさんのお店に辿り着いた。今日は気分がいいからハシゴ酒だ。
「こんばんはー。」
「お、ヤマちゃん、いらっしゃい。少し久しぶり?」
「ご無沙汰しちゃいましたかね。カウンター、いいですか?」
「どーぞどーぞ。」
「おじゃまします。」
少し高いスツールに座り、生ビールを頼んだ。新しいお店巡りも楽しいけれど、やっぱりここは落ち着くお店だ。ビールもすぐ出てくるし。
「ユウに、お店たくさん教えてもらったんだって?」
「そうなんです。どこも素敵なお店ばっかりで。」
「そりゃ良かった。でもあんまり浮気されると、妬いちゃうなー。」
「浮気って!」
苦笑いを浮かべながらも、ヒロさんとの会話は楽しい。今日はお店が落ち着いているようで、店内にいるのは、私とテーブル席にいるグループのお客さんだけだ。
しばらく、ふたりでの会話が続いていると、ドアが開いて新しい客が入ってきた。
「あ、ヤマちゃん、さん…。」
「こんばんは、堂本さん。」
「おー、ユウ。おつかれさん。」
「…ッス。」
しばらく席につかず入口でまごまごしている姿を見て、お蕎麦屋さんでの私を思い出した。距離をはかりかねているんだろう。堪えきれず、小さく吹き出してしまう。
「ふふ、堂本さん。もし良かったら、お隣いかがですか?」
声をかけると、一瞬不意をつかれたような顔をしたが隣に来た。
「堂本さん、この前は色々教えて頂いてありがとうございました。早速行ってみました。」
「ほんとですか。どうでした?」
「どこも全部お気に入りになっちゃいましたよ。」
「あ、それなら良かったです。」
礼を告げると、少し照れたようにはにかんだ。
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