372人が本棚に入れています
本棚に追加
「じゃあ俺もとっとき教えてあげるよ。駅前の交差点を右に入ってく、塊肉のお店、知ってる?ヤマちゃん。」
「お店の前、通ったことはあります。気になってはいるんですけど…。」
「…ヒロさん、あそこ、ひとりでは行き辛くない?」
「うん、だからさ、ユウ一緒に行って来ればいいんじゃない?こいつなら、ヤマちゃんと舌合うと思うよ。オマケしてもらうよう声かけとくし。」
「いえ!オマケなんてそんな!」
「恩売っといて、ヤマちゃんに戻ってきてもらおうという計画なんで気にしなーい!行っといで!」
ほとんど口を挟めないうちに、話がどんどん進んでしまっている。
気になっていたお店だけれど、堂本の言う通りひとりでは入り辛そうな雰囲気で遠くから眺めているだけだった。
前回、お蕎麦屋さんで一緒に飲んだ感じが続くのであれば、また次があっても良いとは思うけれど、隣に座る堂本の顔を見るとすごく困っている。本当に顔に出る子だなぁ。私から声をかけたら、断りにくいだろう。ここは私から遠慮すべき…
「ヤマちゃんさん、行きません?都合つく日あれば。」
「え。」
「ダメですか?俺が勧めた店が良かったなら、多分好きだと思いますよ。」
「えええ…?」
断りの台詞を告げるつもりが、逆に誘われてしまった、のか?なぜ。気乗りしないような顔をしてたんじゃないの?
確かにお客さん同士の交友をがんばる、と思った。この前彼とふたりで飲みに行って楽しかったから、次があっても良いと思った。でも、心のうちで思ったことをすぐに実行にうつすのはすごくハードルが高い。
…んだけど、捨てられた子犬のような瞳をするこの若い男の子を拒否するのはあまりにも酷な人間の所業になるんじゃない?以前私が帰ってしまった時のように、ハイテンションで迫られるでもすれば逃げやすいのに。
「…堂本さんの負担にならないようなら、ぜひ。」
途端、堂本の顔に満面の笑みが拡がった。わ、ちょっと可愛いかも。
最初のコメントを投稿しよう!