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「お誕生日、おめでとうございます。」
「あー、すみません。うるさかったですよね?でも、ありがとうございます。嬉しいです。」
グラスを傾けながら、彼は私の隣の空いた席に座って話を続ける。自分の席に戻らないのか。まぁ、ここは私の店ではないし、断る理由もない。
「あ、うま。これなら一本飲めちゃいそうですね。スルスルーって。お姉さんは、常連さん?」
「いえ、常連を騙る程ではないんですけど、そうですね、たまにお世話になりにきてます。」
「そうなんですね。俺、ちょこちょこ遊びに来てるけど、会ったことなかった気がしたから。俺、堂本悠介って言います。皆はユウって呼ぶかな。お姉さんは、ヤマちゃんさん?」
「はい。堂本さん、おいくつになったんですか?」
「あ、なんか距離を置かれた感じがします。名前で呼んでくれていいのに。25歳になりました。」
「わかーい!でも、一番楽しい時ですね。」
「や、そんなに歳変わらんでしょう。少し上ですか?」
「ふふ、妙齢の女性に歳を聞くのは気分を害する方もいらっしゃいますからね、と人生の先輩からアドバイスしておきます。」
あら、思ってたよりちょっと上だった。でもこの無鉄砲さはやっぱり若さがある。お酒の場だし嫌な印象ではないけど、年齢差を感じさせる。私もこんなだっただろうか。
「…すみません、失礼しました。」
「いーえ、ちなみに私は抵抗ないので。29です。」
「…教えてくれるんですね。25歳、一番楽しかったです?」
「うーん、どうでしょう。今が一番楽しいかもしれないです。」
「なんすか、それ。」
「ふふ、酔っ払いの言うことなんて聞かなくていいってことですよ。」
小さな店では、初めまして同士の会話が弾むこともある。年齢も性別も、ここ以外で何をやってるかも知れない人と、その場限りのたわいも無い内容だ。そういうコミュニケーションも楽しい。
「あの!お名前!なんて言うんですか!?」
「え、だから、ヤマちゃん…。」
「ニックネームじゃなくて!」
「えーと、山際です。で、ヤマちゃんです。」
「下の名前は?」
「えー、内緒です。今の若い子、すぐ検索かけるんですよね?」
「検索かけたら見つかるような人?」
「ううん、特に何も。」
「じゃあ教えてくださいよ。」
「はは、じゃあ次にお会いした時に。ヒロさん!今日はこれでごちそうさま、します。」
「え、ちょっと…。」
「お友達、待ってますよ。存分にお祝いしてもらって、25歳満喫して下さいね!改めて、おめでとうございます。」
私と堂本の会話を聞いて苦笑しながらヒロさんはお会計を済ませてくれた。スツールから立ち上がると、ほんのちょっぴりふらつく気もするけれど、これぐらいなら大丈夫。堂本が差し伸べてくれた手を丁重にお断りした。
家に帰ったら、ボーナスで奮発して買った、ふかふかのダブルベッドが待っててくれる。今晩も楽しいお酒が飲めて良い夜だった。今日の仕事の疲れはもう飛んで行った。
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