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m'02
「あー!やっと来た!ヤマちゃん!」
一週間ぶりの週末にワインバーの扉を開ければ、ここでしか呼ばれない愛称を叫ばれて、思わず肩が上擦った。
先客はひとりだけ、銀縁の丸メガネをかけた若い男の子だ。
ヒロさんの姿は見えないから、彼が声をあげたのだろう。
…誰だっけ?
「ね!ヤマちゃん!待ってたよ!ささ、隣へどーぞ」
カウンターはガラ空きで選び放題なんだから、わざわざ隣に座ることもない。しかも、顔馴染みの人ならともかく、誰だかわからない。とりあえず会釈で返しながら、ふたつ席を開けてスツールに座った。
「え、なんで隣来ないの?」
「いえ…、すみません。以前お会いしました?」
眉間に皺を寄せて、物凄く不機嫌そうな顔を隠さない。ここで正体不明になるまで酔っ払った記憶はないから、会話を楽しんだ人なら覚えていると思うんだけどな、と頭の中の引き出しをガチャガチャ開けたり閉めたりしていると、メガネを外して答えを教えてくれた。
「一週間前に、ここで白ワインをごちそうになったユウです。」
「ああ!誕生日の!えーっと、堂本さん?」
「そう!良かったー!覚えててくれた!うれしー…」
不機嫌な顔から一転、とろけるような笑顔になった。うん、確かこの前会った時も表情がコロコロ変わる子だなぁ、って思った覚えがある。
「メガネかけてたからわかりませんでした。」
「あー、これはね、伊達です。ねね、この前の約束覚えてます?」
約束…なんだろう。やっぱり酔っ払ってたのかな、さっぱりだ。また不機嫌な顔されるのも面倒だけど、果たして思い出せるか…と考えていると、キッチンの奥からヒロさんがやってきた。
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