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死神が私を呼んでいる
愛優(アユ)は卒業を控えた大学生で、今日は一日卒業論文のための資料をまとめていた。 図書館や資料館を巡り予定していた作業を終えた時には既に日が落ちかけていた。
―――うわぁ、また帰りが遅いってうるさく言われるよ・・・。
時計を確認し片付けを終えると、足早に自宅へと帰る。 10時間近く作業していたことで疲労も溜まり、甘いものでも身体に入れたいと自販機でコーヒーを買った。
「おーい! 早く付いてこないと置いていくぞー!」
「待ってー!」
その時、後ろから元気な子供たちの声が聞こえてくる。 軽く避けようとしたが間に合わず、そのせいで先頭を走っていた子供と派手にぶつかってしまった。
「わッ・・・!」
子供と共に倒れ、子供は歩道に愛優は車道へと突き飛ばされた。 それに一安心したのも束の間、愛優の間近を黒色の軽自動車が猛スピードで通過していった。
事故にはならなかったが、車の大きさがもう少し大きかったり走る位置が歩道寄りだったら轢かれていただろう。
―――あ、危なかった・・・。
「ごめん、姉ちゃん! 危なかったな! てかスピード違反で捕まるでしょ、あれ」
子供はそれだけ言うと、仲間たちに合流しどこかへ行ってしまった。
―――二人共何もなくてよかったけど、一歩間違っていたら死んでいたよ・・・。
そう思い怖くなった愛優は車が通らない細い道を通ろうと角を曲がったその時だった。
「・・・ッ!」
目の前に突然現れた人物を見て息を呑む。 いや、人物と言っていいのか分からない。 何故ならそれは全身黒づくめで大きな鎌を持っていたからだ。
「・・・どうして・・・」
震える声で尋ねると目の前にいるソレは笑いながら言った。
「どうして? それは愛優が一番分かっているんじゃない?」
ソレの第一印象は完全に死神である。 そしてその死神の顔は確かに知っている人間の顔をしていたのだ。
―――・・・貴成(タカナリ)くん。
それは亡くなったはずの大好きな恋人だった。 その恋人が死神の姿をしている。 更に言うなら足が地面に着いておらず、身体が宙に浮いているのだ。
そして不敵に笑いながら徐々に距離を詰めてきていた。
「嫌・・・ッ! 来ないで・・・!」
「酷いなぁ。 どうしてそんなことを言うの?」
「・・・」
「もしかして、俺のこと忘れちゃった?」
おどけてみせる貴成に好感は全くなく、愛優は震える唇を嚙み締めるばかりだ。
―――・・・そんなわけがない。
愛優は怖くなって背を向け逃げ出した。
「愛優ー? 急に走り出してどうしたのさ?」
相手は死神だ。 いくら元恋人の顔をしていても死神と会うだなんて悪いことが起きるとしか思えなかった。 貴成から逃げるため無我夢中で走っていると、またもや角から突然現れた車に衝突しそうになる。
―キキーッ。
「またッ!?」
間一髪で避けることができた。 運転手が咄嗟にハンドルを切り避けてくれたからだ。
「大丈夫か?」
「あ、はい。 すみません・・・」
運転手は愛優が無事なことを確認するとそのまま去っていった。 自分の真後ろには貴成がいる。 その姿を見れば、普通は何らかの反応を示すはずだ。
―――他の人には貴成くんの姿が見えていないの?
―――どうして私だけ・・・。
「愛優。 逃げないでよ」
―――・・・そうか。
―――さっきから私が何度も死にそうになったのは、この死神のせいなんだ。
そう思った愛優は振り返り死神である貴成と向き合った。
「・・・何しに来たの?」
「愛優を迎えに来たんだよ」
「・・・」
その言葉を聞いて恐怖が蘇る。 だがある程度は想定していたため正気は保てている。
「三年前のこと、憶えているよね? まさか忘れているだなんて言わせないよ?」
死神である貴成の言葉が何を指しているかすぐ分かった。
―――・・・そう。
―――忘れるわけがない。
―――本当は私は、三年前に死ぬはずだったんだから。
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