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愛しい人の死を簡単に忘れてしまう人間などいないだろう。 愛優も同じ。 あの時のことは忘れたくても忘れられ辛い記憶だ。
―――あんなに痛いくらいに苦しかった気持ちを、忘れるわけがない。
今も死神はこちらを見据えている。 本当は彼の姿を一目でも見れて嬉しかった。 ただ恐怖を感じたのも事実だ。
―――本当はあの時、私が死ぬはずだった。
―――貴成くんは死ぬことはなかったんだ。
―――・・・大好きな人を殺してしまった。
―――私が殺してしまった。
―――そんな自分は幸せになってはいけない。
―――そう思って今まで過ごしてきた。
そう思わざるを得なかった。 自分を助けてくれたことに感謝はしている反面、自分だけが生きている罪悪感もかなりあった。
―――あれ以来恋なんてしてこなかったし、就活生である今もいい仕事には就かないように決めている。
―――私にはそれくらいしかできない。
―――生きる資格なんてないからこのまま死んでしまいたかったけど、それが怖くてできなかった。
―――だから私は影のように、目立たないようにひっそりと生きるしかなかった。
「憶えているようだね。 安心したよ」
死神は手を差し伸べてきた。
「さぁ、おいで。 俺のところへ」
貴成の手をぼんやりと見つめた。 その手に触れようとして、止めた。
―――・・・確かにこのまま死んでしまいたい気持ちはある。
―――でもこれは違う。
―――今目の前にいるのは本物の貴成くんなの?
―――この手を取れば私の罪はなくなるの?
―――・・・それは違う気がする。
このまま死神の言いなりになればどうなるのか想像がつかなかった。 確かに貴成の姿はしているが、だからといってこの死神が貴成であるという保証はない。
ただ自分を安心させるためだけに、貴成の姿を使っているだけなのかもしれない。 やはり何度考えてみても、その手を取る気にはなれなかった。
「どうして手を取らないの?」
「・・・」
「責任を感じているんじゃないの? 自分のせいで俺を死なせてしまったって」
確かに責任は感じている。
「なら俺のもとへおいでよ。 そしたらもう責任を感じる必要はないんだよ?」
それでも横に首を強く振って拒否した。 怖くて仕方がないが、譲れないこともある。
「・・・そっか。 俺を拒否するんだ」
残念そうな貴成の声が聞こえると同時、頭上からゴトッという音が聞こえてきた。
「・・・え?」
真上から鉢植えが落ちてきていた。 何が植えられているのかは分からないが、かなり重そうで当たればただでは済まない。 風で落ちたのかもしれないが、あまりにもタイミングが良過ぎた。
「いずれにしても、愛優は死ぬんだよ」
「ッ・・・」
「俺と一緒に」
―――これも死神の仕業なの?
―――私にはもう、死ぬしか道はないの?
―――・・・そっか。
―――これが償いなんだ。
―――もう私には逃げる道がないんだ。
もう逃げるには遅かった。 死を覚悟し固く目を瞑った。 その瞬間辺りが真っ白く光った。
―――・・・あれ?
―――痛く、ない・・・。
直撃していれば頭から血を流して、ここで死んでいてもおかしくなかった。 なのに今は痛みすらない。 恐る恐る目を開けると前には真っ白の服を身に纏った一人の男性が立っていた。
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