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悪いのはわたし
勉強をしなんだのは
わたし
悪いのはわたし
お母さんに隠れてバイクを乗ったのはわたし
悪いのはわたし
悪い人と呼ばれているのはわたし
わたしの上には
誰もいない
いない
いなーい
いないいないばあ
あははのは
うふふのふ
【わるいこだれだ】
ぽたりと労働の汗が万丈の額に浮かんで薄暗いコンクリートの床に落ちた。
「しらねえよ、俺はしらなかったんだよお、いてえよいてえよ、骨ほねが俺の骨が早く病院、病院、行きつけの医者がいるんだ番号を」
泣いている男にもうお前の骨は再起不能だ、医者はいらない、何故なら俺が全部丹念に潰してやったからな。足も手も鼻もみいんな砂利道の砂みてえになっちまったんだよ。
そう言うと、声は地下室にうわあん、うわあんと甲高く響いた。
今夜のお客は一層ほぎゃほぎゃとうるさい奴だな、と思いながら、裸電球の下で腕まくりをしたYシャツの右腕の裾で額を拭う。
左の手にはバット、硬式野球のバット。
固い鉄製のそれは太い箇所は既に青い塗装が剥げていたし、今日のお客の体液にまみれていた。
テープが巻かれたグリップ部分は万丈の汗や長時間握り締めて血豆が潰れてそこもまた汚れている。
つまりが綺麗な部分がないということだ。
高身長の万丈は並みのシャツでは間に合わない。
だから糞まみれ、嘔吐物まみれになる作業が待っていると知っていても 彼は輸入物の馬鹿高い代物を身に付ける。
妥協する気にはなれないのだ。
馬鹿だなあと思っていてもサイズにあった衣服はやはり良いものだと思う。
そして今日も柔い色合いの白い布地は小便や赤い液体で染まっていた。
「田辺」
シュッ…と万丈の背後でマッチが擦られ、硫黄の匂いが辺りをかすかに漂う。
「俺の金を盗んだな?」
ふう、と吐かれる息に合わせて硫黄と血反吐の匂いに煙草の匂いがまぶされる。あくまでも交わらぬ。
万丈の後ろで空き箱に座っていた男がぬらりと立ち上がる。
半分程飲んだ後、灰皿代わりにした缶ビールを手にしながら床に転がった田辺に近づき、静かな笑顔で見下ろした。
「知らな、本当に知らなかったんだ!尾上さんの金だなんてただ…ただ三山がある金庫を開けたら一割くれるって言うから、ちょっと開けて、もらった金もたった三十万…全部つか、使っちゃったんだ許して下さい知らなかったんだ」
万丈はいつも思う。人は何故殺されると分かっているのに言い訳をするのだろうか。
(もっと格好よく、死ねばいいのに)
万丈の目が田辺を見下ろす男を捉える。
厚い太股だ。
そしていかり肩だ。
ほど良い肉体をオーダーメイドのスーツで包んでいる彼は、真夏であろうときっちりとお気に入りのスーツを身につけている。
男の情婦の話では、眠る時もスーツに着替えて眠ると言う。
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