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「俺は悪い男だからいつ殺されてもおかしくないんだよ」
…いつでもそのまま棺桶に入れてもらえるようにそうしてるんだ。
男は着飾ってなんぼだからね。死ぬ時にチンポだしてちゃ洒落にもならないしさ。
知らねえ奴に体を洗われて脱脂綿とか穴にいれられるのは趣味じゃあ、ない。
死んだらパッと棺桶に入れてサッと焼いてもらえりゃ、問題ねえんだ。
…彼はそんなふうに言ったそうだ。
彼は尾上徳治、万丈のボスだ。
髪を短く刈り上げて、左耳の耳たぶは半分千切れ、右の下唇は一部肉が醜く引きつれている。
噂によると耳はノンケの若い男を犯そうとして噛み切られたらしい。 唇は知らない。
尾上はバイだ。
別に男が好きな訳じゃないが穴があるなら彼はそこに一物を入れ、腰を振る。もてない訳じゃない。ただ女を口説く手間が面倒なのだと彼は言う。
性欲を満たす為に女がいなかった昔の兵隊は羊のアナルを愛用したそうだ。それに比べると人道的だと万丈は思うし、自分に被害がなければいい。
彼が言うには男だろうが女だろうが快感は一緒らしいがたった一点だけ男もイケる男になって欠点が出来るらしい。
「俺が突っ込むのは同じ男だろ。だからな、サウナなんかで裸になるとな、男が敵に見えるのさ。ふふふ、隣の奴がホモでいきなり押し倒されて突っ込まれやしないかってビビッちまう。そんな時は女だけにしておけばよかったと思うんだ」
そんな事を彼は嬉しそうな表情で話していた事があった。
彼が若い男を無理矢理犯す所を万丈も何度か見た所がある。
尾上は若い男が好みだ。明るくて可愛い二十歳前後の若造がいいらしい。
田辺は尾上のコックの味を知っている。尾上に事務所に呼びだされ、そのまま尾上の机の上で犯された。
「…なあ田辺。俺は残念だよ。俺はお前の尻を気に入っていたからな。あんなに可愛がってやったのに、お前は俺を怒らせた。何故だと思う?」
そんな事を思っている間に尾上はゆっくりと腰をかがめた。黒い縁取りを入れているのかと思う程、彼の目力は強い。
捉えられれば逃げられない気にさせるのだ。
彼の背中で見えないが、田辺は海月のような手足を震わす事も忘れて尾上を見つめ返している事だろう。
「すみません、尾上さ」
「金を盗ったのは誰だ」
沈黙。
尾上の左手がすうっと上に上がる。
握られているのは缶ビール。中には液体と何本もの煙草が
「…叫び過ぎて喉が乾いたか?お前は良くセックスの後にはビールを飲んでいたものな。飲ませてやろう」
ふふ、と空気が震えた。
缶ビールが傾き始める。ニコチン入りの液体は、犬を殺す。人を殺す。
それに気付いた田辺が絶叫した。
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