chocolate 02 行き場を失くしたソレ

3/8
前へ
/137ページ
次へ
「……可愛いげがないな。もうちょっと抵抗しろよ」 途端につまらなさそうな顔をした篠原に、深いため息を返す。 「こっちは昨日、編集長から散々嫌味を言われているんです。そんな物に構ってまた原稿が遅れるくらいなら、先生に恥を曝す方がずっとマシです」 「お前、本当につまらないな……」 心底つまらなさそうに言った彼は、容赦なくリボンを解いた。元カレのために施したラッピングが、乱暴にこじ開けられていく。 それは、どこか小気味良くも思える光景。 昨夜から心に溜まっていたものが、ほんの少しだけ消えたような気がした。 「あ〜ぁ、溶けてる……。ここ、エアコン効いてるからな」 篠原の綺麗な指先に摘まれた生チョコは、エアコンが発する熱のせいで形が崩れてしまっていた。 「〝パヴェ・ド・ショコラ〟、ね」 「え?」 「フランス語で〝生チョコ〟」 小首を傾げた私に短く答えた彼が、それをゆっくりと口に運ぶ。 「苦……。しかも、どれだけリキュール入れてるんだよ……」 「仕方ないじゃないですか……。彼、甘い物が苦手だったんですから」 ビターな物なら食べられるお酒好きな元カレのために、ビターチョコと生クリームに、たっぷりのラム酒を加えたのだ。
/137ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2832人が本棚に入れています
本棚に追加