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「それにしても、これは苦過ぎるだろ」
「でも……去年それをプレゼントしたら、彼は『美味しい』って言ってくれました……」
話しながらまた虚しさが募って、心が鉛みたいに重くなったような気がした。
「それは、完全にお世辞だろ」
眉を潜める篠原に、もうため息しか出ない。それでも、今日こそ原稿を受け取らなければ、編集長からどんな嫌味を言われるか……。
「……先生、もういいでしょう? いい加減に原稿を書いてください」
それを避けるためにも、振り回されてばかりじゃいられない。
だけど、彼が書斎に戻る気配はなかった。
「お前さぁ、泣いたりしないわけ?」
「……泣いたら、原稿を書いてくださるんですか?」
ため息混じりに訊き返すと、返ってきたのは私のものよりも深いため息。
「そうじゃなくて、振られたんだろ?」
「……勝手に決めつけないでください」
「でも、事実だろ」
あくまで私の方が振られたと言い切る篠原は、千里眼でも持っているのだろうか……。
そんなことを考えながら適当な言い訳を探していると、彼がどこか呆れたようにため息をついてから続けた。
「お前、本当にそいつのこと好きだったのかよ? 一年半も付き合ってたんだろ?」
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