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篠原には、元カレとのことをある程度は話してある。
もっとも、『話さないと原稿は書かない』という理不尽な脅しによって、話さざるを得なかっただけなのだけれど……。
そんな篠原が元カレのことを詮索してくるのは、ただ私のことをからかっているだけなんだろう……。だから、私もいつものように適当に切り返して、さっさと彼を書斎に閉じ込めてしまえばいい。
それなのに──。
「……放っておいてください。私みたいな女は、どうせただの脇役なんですから」
募り過ぎた虚しさのせいですっかり鉛と化してしまった心が、いつものように振る舞わせてはくれなかった。
いつも以上に捻くれている私に、篠原が一瞬だけ目を小さく見開いたあと、呆れたように口を開いた。
「つまらないことばっかり考えてるから、素直に泣けないんじゃないのか?」
「……別に泣きたくないので」
「お前って、顔がグチャグチャになるまで泣いたりしないわけ?」
「少なくとも、大人になってからはそんな風に泣いたことはありません」
「セックスの時も?」
「は……?」
さっきの流れからどうすればそんな話になるのか、私にはちっともわからない。
それに、さすがにこの質問に答えることには躊躇ってしまった。
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