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視線を泳がせて逃げようとする私を、篠原が無言で促してくる。
もう、自棄になるしかないと思った。
「な、泣きませんよっ……! 悪いですか⁉︎ 大体、セックスしたくらいで泣くわけないじゃないですか! あんなの大して気持ち良くもないし、相手にずっと気を遣ってないといけなくて、疲れるだけです!」
そこまで言ってから、やっと必要のないことまでベラベラと話してしまったのだと気づく。消えてしまいたくなるほどの恥ずかしさが込み上げ、バカな自分に呆れ返ってしまった。
そんな私に、篠原が冷静な表情を向けた。
「だから、お前はダメなんだよ」
何度目かわからないダメ出しに、溜まりに溜まった虚しさが爆発しそうになる。
それでも吐き出す言葉を見つけられずにいると、突然真剣な表情になった篠原がジリジリと近づいてきた。
そんな彼に戸惑って、思わず後退る。
「なっ、なんですか……?」
あくまで平静を装っていると、篠原が口元を緩めて妖艶な笑みを浮かべた。
まるで、私の心を搦め捕ろうとするような誘惑の表情。
あまりにも綺麗なそれを前に、意図せずに胸の奥が高鳴る。
「そんな顔ばっかりしてないで、お前もドロドロに溶けてしまえよ」
「え……?」
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