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出会いは万丈がバイトをしていた飲み屋だ。笠松はそこの常連で、何故かは知らないが万丈を可愛がってくれた。
金がない万丈を連れ出してキャバクラやソープで馬鹿騒ぎをしたり、競馬に引っ張りだして大枚をパーにする変なおっさんだった。
「あの人、ヤーさんだよ」
と言われても万丈の前ではただの気のいいおじさんだったし、断る理由としてはいかがなものかと思ったのでずるずると携帯番号を教えあいっこをして、メールを1日2、3回する変な仲になった。
いつだかどうして俺に良くしてくれるんですか、そんな風に聞いたなら笠松はヘラヘラ笑って焼酎の入ったコップを唇につけて、赤い目を万丈に向けた。
「俺ねえ、なんとなく解るんだよ。強くなれる奴と弱いままの奴の違いが」
スラッガーって知ってる?
野球の強打者の事だよ。
野球好き?
ああ、そう少年野球してたの。道理で尻が硬そうだと思った訳だ。
…ああ誤解しないでな、俺はホモじゃないよ。
俺のダチにいるけど、俺はホモじゃない。
ただ肉付きがそうだろうと思ったのよ。
ああ変な話になっちゃったか
スラッガーって言うのは
勝負強くて打率がいい選手の事を言うんだよ
どうして強くなれる奴と弱くなれる奴がいると思う?
ヘラヘラと笠松は笑いながら真理を言った。
「そいつらはさ、いつだって自分の事だけを考えているからだよ」
人の事なんておかまいなしに自分をかまう。
自分の成長を第一に考える人間だからさ 。
お前からもそんな匂いがする。
他人なんてえより自分の生き道に筋道立てて生きたいって顔に書いてある。
そうじゃなきゃ、自立する為に東京に行くって考えなんかないだろう?
安穏に田舎で跡目でもついでいればいいじゃない。
「俺もね、今はこんなバリバリの関東弁なんだけどね」
と、笠松はくすぐったそうな笑い声を上げた。
「ほんとうはお前が田舎もん丸出しだったんだもの。…なんだか親近感沸いちゃってさあ。だって服装のセンス以外昔の俺そっくりなんだもの。だから近づいてナンパしようかと思ったのね。どう万丈くん。ヤクザ、格好いいと思わない?俺の下についてさ、一緒に暴れるの。俺の組においでよ」
なんにも考えなくっていいんだよ。
ただちょっとの忠誠心と我慢強さがあればお前はもっと上にいけるよ。
男に生まれてきたのなら強くなりたいでしょう。
男に生まれてきたのなら男の生き方してみたいでしょう?
…そんな、口車に上手く乗ってしまった。
スカウトマンの目に狂いはなかったのか、なかなか万丈は筋が良かった。
心地よい刺激と痛み
足を蹴るタイミング
腕を振るリズム
自分に合った獲物
(テーピングを施したバット。こいつは二人でうんうん唸りながら悩んだ。一番万丈に合う鬼に金棒の逸品。背丈の高い万丈にはドスは似合わない、日本刀はド派手過ぎる。落ち着いたのは硬い鉄の素敵なバット。カキーン、敵の頭でホームラン)
なんだって二人で決めた。
二人で笑って、怒って。
万丈は笠松に習い、笠松は万丈に教えた。
万丈は万丈の為に
笠松は笠松の為に
打率を上げ
勝負に負けないよう
打った
走った
夢中で駆けた
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