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万丈の実力が認められ、他の幹部の下につく事になったのはそれから三年程たった後である。
今度の上司は尾上と言うあんまり評判の良くない人間だ。
「ホモ、なんだよね。ホモっていうか…バイ?よくわかんないけど」
別れの夜、行き着けの中華飯店でのんびりと酒を飲みながら笠松は言った。
「尾上って言ってさ。俺のダチなんだけど、タチは悪いよ。俺はタイプじゃないからいいんだけど、ちょっとカワイコちゃんがいたら便所だろうが事務所だろうが、押し倒して腰を振る。子供なんだよね、欲しいと思ったら実行に移しちゃうの。でもそれ以外はやる事に全部それなりの理由がある奴さ。自分をしっかり解ってる。多分お前の勉強になるよ。 頑張りなさいよ」
「でも寂しくなります。俺はあなたのおかげで強くなったんだ、もっと一緒に生きていたかった」
お世辞と本気をごちゃまぜにして焼酎を飲む笠松に言うと、ヘラヘラ笑いの化け物は頭を掻いて恥ずかしそうに唇を突き出した。
今日のネクタイはキューピッド。
灰色の地味なスーツには悪目立ち過ぎて逆に笠松のデタラメなセンスが良く見えてしまう。
「万丈は女にモテるだろ、言葉の使い方が旨すぎるよ。危険な男だねえ、おじさんすんごいドキドキしちゃったじゃなあい。…ん、また働こうな。俺とお前がいたらさ、ゲームは無敵だ。ひっとり勝ちさあ。」
笠松がグラスをかかげる
ええ、また一緒に。
万丈がグラスをかかげる
男達が約束の乾杯をした。
尾上はデタラメな男だと万丈は思う。
浅黒い肌に刈り上げた髪鍛えられた腹筋、そんな大人の男のパーツの必ずどこかに小さな子供が潜んでいて、尾上がふと気を許した瞬間に顔を出す。
物知りな癖に今の首相が誰かを知らず
飽き性の割にバイクの話になると唾を飛ばして熱を増す
熱に浮かされたようにバイクのホイールの完組や手組の違いについて語り
自分が走った道の情景や
そこでの道の走り方
彼はビールが相棒だったが、そんな話の時は炭酸が抜けるのも構わずに唾を飛ばしてとことん喋り続けた。
四十を回ったおっさんはいまだに二十の少年のようだ。
「コーナーを回る時は少しだけケツを浮かすんだよ。バランスと息の相性が事故を防ぐ。時には足を曲げて重心をわざと作る。速さを落とさずにスピードを上げる。走りの醍醐味は高揚感だ。バイクは女と一緒だと言う馬鹿がいるがそんなもんじゃない。バイクはたかが乗り物じゃない。馬だ。セックスなんてメじゃねえよ。奴が行きたい場所に俺が誘導してやるんだ。エンジンがかかる。体が震える。俺はまず聞いてやる。どこにいく?すると相棒は答える」
まずは道の最後まで
そこから先は風で決めよう、
ブレーキはかけないで
走って行こう
どこまでも
そんな事を言う尾上はおめめに星が入っていた。
全体的にキラキラしていて赤く頬染めて、ひきつれた唇を少しすぼめ千切れた耳を引っ張る。
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