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「好きなんだよ、バイク。夜中に抜け出して先輩に貰ったオンボロバイクで走った。それだけじゃ段々満足出来なくなって近所の兄ちゃんのバイクをばらして部品を盗んだり、バイトをしたり、かつあげをして一つ一つバイクを作りあげたんだ。金は金だよ、汚れていようが手にマメが出来るまで働いて手に入れようが金は金だよとにかく金が入れば嬉しかった。kATANA、HAYABUSA、欲しいバイクはあったけどな。それよりもつぎはぎの俺のバイクが好きだった。俺だけのバイクだったしなによりエンジン音がイカしていたんだ。エンジンをかけた時はフォオオンそこから地響きみたいなブ…ブロロ。何回も何回も聞いた。機体に耳を当ててギターのチューニングをするようにな。色はツヤのある深緑の車体に黄色のラインが左右対照に入ってな。走った時にそのラインが生きるんだ。ライトが一筋流れたような…あれはどこにいったんだろうな。あんまり覚えちゃいない。いま?今はスクーターかな。ビッグスクーター。曲がるときは大変だけど、安定感が凄いぞあれは。もう早過ぎるのは無理なんだ。走りに目がついて行きやしねえ。年、とっちゃったからなあ」
そしてある時の尾上は不条理の塊だった。
目つきが悪いとチンピラを殴り、いいケツをしているのが悪いとチンピラを犯し、キャバクラで散々上玉とお喋りしたあげく、延長料金を突きつけた店長に入る時に三千円ぽっきりと言っただろうと因縁をつける。
それでいて 筋を通さない人間を嫌う性質もあった。
やくざでいられる、というのは 規律を守ると言う事を遂行しなくてはならない。
堅気よりも少ないが、それは確かにある。
金を納める力がある
(どんな事をしても)
嘘は言わない
(仲間内では。必要のある嘘は考慮する)
時間にルーズではない
(組織ぐるみで動いているのだ。勝手をすると迷惑である)
そうだ
彼はけして嘘をつかなかった。
気分が悪い時は暴れたし
気分が良い時は笑った
悲しい時は
「一人にしてくれ」
と自分の部屋に引きこもったし、嬉しい時は万丈、その他を引き連れて金を捨てるように飲みに行った。
怒った時は容赦なく、人を愛した時は少し照れくさく、ポツリポツリとその女の膣の締まり具合なんかを冗談まじりに話し出す。
素直、なのだ。
実直ではなく
素直、なのだ。
万丈は必然的に他の部下より長く尾上についていたし商売人の息子の性か、人間観察をする目は肥えていた。
それに尾上は万丈を性の対象として一度も見た事はなかったから、側にいても平気だったのかも知れない。
「でけえんだよ。ひょろひょろしやがって、クッソ、俺よりでかいじゃねえか。俺は生意気そうで元気のいい若い男がいいんだ。水を貰えていない観葉植物みたいなガタイしてるお前には突っ込んだナニが萎んじまう。はは、それにお前は笠松からの大事な預かりもんだからな。キズ物になんかしたらあのジジイにぶっ殺される。壊し屋のあいつに逆らう気はねえよ」
壊し屋、いわゆる組のお掃除屋さんだ。
笠松は強い。 ヘラヘラしながら人を壊すのだから怖くて強い。
尾上も一目置いているし友達だ。
二人に共通点は余りないが、揃って一緒なのは変人ということだ。
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