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『お待たせしました。二番線、普通列車越野沢行き九時四十七分発、間もなく……』
夢と同じ時間の電車を選んだ。
服装も、鞄も、夢で身に着けていたものを選んだ。
乗り換えの選択肢は複数あったけれど、それも夢と同じ駅ですることにした。手向ける花は、地元に着いてから購入すると決めている。
君は、あのときと同じように、私に気づいてくれるだろうか。
あの日の夢に君が現れた理由を、私は今も考え続けている。
夢にしてはあまりにもリアルだった。土に汚れたスニーカーも、その潰れ方も、君の声も、喋り方も、掴んだ腕の感触も、どれもこれも鮮明に記憶に焼きついたきり離れない。
君が助けてくれたと考えるのは、いくらなんでも安易が過ぎる。けれど私にとってはすべてだ。あの夢の中で、君は間違いなく私の行き先を変えた。
不毛な今を断ち切って、新たな一歩を踏み出すためのスタートラインを引くこと。そしてその線は、自分で引く場所を選んで、自分の手で引かなければならないこと。
君がそれを教えてくれた。君に会えていなかったら、きっと私は、苦しい現状を変えようと思うことさえできていなかった。
事故の現場にも、ましてや墓地にも、君がいるはずはない。
会えるわけでももちろんない。
頭では分かっている。だとしても。
会いに行く。今から、君に。
君のためではなく、私自身のために。私が、次の一歩を踏み出すために。
私はつくづく身勝手な人間だな、と思わず苦笑が滲んだ。
それでも、こんなにも身勝手な私のことを、どうかあの日のように笑って眺めていてはくれないだろうかとも思う。
ほどなくしてホームに入ってきた電車の、明らかにガラ空きに見える車内に、私はゆっくりと足を踏み入れた。
〈了〉
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