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「梨沙!梨沙!りさーーーーっ!」
わたしの名前を呼ぶ、懐かしい声。
母親の声だ。
わたしはゆっくり目を開けた。
酸素マスクをされ、心電図を計測されているのか、ピーピーピーという機械音が耳に入ってきた。
「梨沙!目がさめた?
よかった!
先生!先生!」
取り乱した母親が、ナースコールを押したようだ。
夢?
どっちが?
「梨沙!わかる?ママよ」
うん、わかるよ。
コクンとうなずいた。
「星也は?」
「え?なに?」
母親の顔が近づく
「せ、い、や」
「せいや?
何?それ」
「な、お、や、は?」
「尚也くん。」
母親は、大粒の涙をボロボロボロッとこぼして、首を横に振った。
「ダメだったの。
尚也くん、梨沙を守ってくれて・・・
普通なら、運転している人が無意識に自分を守ってハンドルきるのに、尚也くん、梨沙とお腹の赤ちゃん守って、自分が犠牲になったって・・・」
早口でしゃべる母親の言葉が、あまり理解できなかった。
ただ、蘇ってきた。
尚也とふたりでドライブ中、対面車が猛スピードでわたしに向かって突っ走ってきた。
あ、ぶつかるって思った瞬間車がグルンと回転して、そこからの記憶がなかった。
今、母親の、「ダメだった。」
って言葉と、「守ってくれた」
って言葉が、頭の中で繰り返していた。
そして、気持ち悪いくらいに、はっきりと、頭の中で響いている言葉が、
「お迎えにまいりました。」
だった。
ー完ー
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