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窓を開けると、潮の香りがした
ガタンゴトン
列車がきしむ音が響く
海。
何年ぶりだろう
隣りには、尚也が星也を抱いて、笑っている。
星也にとっては、初めての海だ。
ガ、タン、ゴ、トン
列車がブレーキをかけはじめた。
駅が近づくと、尚也は、星也をわたしに差し出した。
え、なんで?
そのまま抱いててくれないの?
わたしに微笑みかけ、ひとりで立ち上がってドアに向かう尚也
え?海、いっしょに行くんじゃないの?
なんでひとりで行くの?
わたしは星也を抱きながら、尚也についていこうとした。
すると、尚也は、わたしに、来るな!っていう風に、手のひらを指し示した。
駅に到着して、ドアが開くと、海には場違いな、黒いスーツを着た50才代ぐらいの男性が乗り込んできて、わたしにむかって、
「お迎えにまいりました。」
と言った。
何、このおじさん。
わたしはこんな知らないおじさんについていかないよ。
わたしは尚也についていくんだから。
そう思いながら、尚也の後についていくと、
尚也は振り返り、わたしをキッとにらみつけた。
今まで見たことがない、鋭い形相で、わたしは怖くなって立ちすくんでしまった。
そして尚也は、黒いスーツの男性の肩をガシッとつかみ、押し出すようにして、ふたりで駅に降りた。
「梨沙!」
誰かに名前を呼ばれた。
振り返ったけど、誰もいない。
「梨沙!梨沙!」
誰?わたしの名前を呼ぶのは。
聞き覚えのある、懐かしい声だ
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