隣がいい

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 戻ってきた隆也の手は今日も空っぽだった。バイクの座席下から私用のフルフェイスのヘルメットを取り出して渡してくる。 「ほら、帰るぞ」 「ん」  ヘルメットをつけて、バイクのエンジンをかけた隆也の後ろに乗る。背中に抱きつけばゆっくり加速した。昼間は暖かいけれど、夜は涼しい。そんな季節の風を受けながら、人気のない幹線道路を進んでいく。  しばらく走ったところで信号に引っ掛かった。ここ地味に長いんだよなあとぼんやり考えていたら「なあ」と隆也から話しかけられた。 「昨日、どうだったんだよ」 「えっ」 「告ったんだろ、兄貴に」  まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかった。驚いたのは一瞬、昨日のことを思い出したら目頭が熱くなってきた。ぐっと唇を噛み締めて堪えようとしたけれど涙が溢れてくる。 「おい、咲子」 「……っ」  何も返さない私を不審に思ったのか、隆也が小さく振り返った。  だけどお互いフルフェイスのヘルメットをしていて、私の顔が見えなかったのだろう。嘆息しただけで再び前を向いてしまった。  さっきは隆也が来ることにちょっとがっかりしたけれど、今はよかったのかもしれない。
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