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1-5. 大地を穿つ大穴
「ふぅ、良かった……」
レオが胸をなでおろした時だった。小さな渦を巻いて吹き上がった砂ぼこりがシアンの顔を直撃してしまった……。
「ふぇ……」
シアンが動かなくなる。
「だ、大丈夫?」
レオは心配した。
「ふぇっくしょん!」
思いっきりくしゃみをするシアン。
その拍子に道に落ちる殲滅暗黒……。
すると、殲滅暗黒は道そのものをはぎ取り、大地をガンガン吸い込みながら一気に地中へと落ち始めた。
「あっ!」
レオが驚いている間にも殲滅暗黒は加速しながら地中深くへと落ちて行く。ズズズズ! と激しい地響きを伴いながら大地がどんどんと飲み込まれ、巨大な穴が広がっていく。
「ヤバい、ヤバい! 星が消えちゃう!」
シアンはそう叫びながら、急いで暗く深い穴の底へと飛び降りていった。
地響きはどんどん激しくなり、レオは立っていることもできなくなる。穴はどんどん広がり、レオの所に断崖絶壁が迫ってきた。
「うわぁ! シアン――――!」
叫ぶレオ。
ズン!
激しい閃光が穴から吹き上がり、激しい衝撃がレオを襲う。
「ひぃ――――!」
一気に地割れが広がり、レオに迫ってきた。
「マズい!」
レオが真っ青になって逃げようとした瞬間、地面が崩落し始める……。
「ぐわぁ――――!」
地面と共に真っ逆さまに穴に落ちて行くレオ。手足をワタワタとしながらレオの身体は深い深い穴の奥へと吸い込まれていった……。
レオには全てがスローモーションのように見える。崩落していく地面と共にゆるやかに宙を舞い、穴の開口部から見える青空がどんどん小さくなっていく……。
「なぜ……?」
王女を助けてって言っただけなのに、地獄の底へと落とされる理不尽さに、レオは気が遠くなり、ビュオーという激しい風切り音に身を任せていた――――。
直後、レオはいきなり身体がふわっと浮き上がる感覚を覚える。そして、ふんわりと柔らかいものに受け止められた。
「え?」
驚くレオ。
「セーフ! くしゃみは危険だねっ!」
シアンが苦笑しながら言う。レオを受け止めたのはシアンだったのだ。
レオは大きく息をつくと、
「……。もう……、死んだと思ったよ……」
と、眉をひそめた。
「ゴメン、ゴメン!」
シアンはそう言いながら、レオを抱きかかえたまま深い深い穴を地上へ向けて飛ぶ。
レオはシアンの体温を感じながら、安堵に包まれた。
それにしても王女様を助けるのになぜこんな大穴が開くのか、改めてシアンのメチャクチャさにレオは深いため息をついた。
シアンはどんどんと上昇し、開口部を超えて上空まで一気に飛んだ。
いきなり明るくなり、ブワッと広がる黄金色の麦畑……。
「わはぁ!」
レオは生まれて初めて見る上空からの風景に圧倒される。広大に広がる麦畑に、キラキラと日差しを反射しながら流れる川、遠くに見える立派な街の城壁……。それはまるでおもちゃのミニチュアのように現実感を伴わないまま、レオの視界いっぱいに広がった。
そして下を見ると、ポッカリと開いた底の見えない真っ黒な穴……。美しい風景の中、そこだけ、異様な禍々しさを放っていた。
シアンは直径百メートルはあろうかと言うこの巨大な穴の周りをぐるっと回って飛んで様子を確認する。
道は途切れてしまい、池からの水が滝のように穴へと流れ落ちていた。もはや災害である。
◇
王女が池から上がってきて、道からシアンたちを見あげていた。
シアンは彼女を見つけると、王女に手を振りながら徐々に高度を落としていく……。
そして、王女の前にシュタッと着地すると、
「悪い奴はとっちめておいたよ!」
そう言いながらレオを下ろした。
王女はとまどいがちにシアンに頭を下げてお礼を言った。
「た、助けていただいてありがとうございました」
「無事でよかったね!」
シアンはニコニコしながら言う。
しかし、王女は穴の中を恐る恐るのぞき、どこまでも深く底の見えない暗黒の穴におののく。
「この穴は何とかならないでしょうか? 道が切れるのは困るんです……」
王女は困惑した表情を見せる。
「分かったよ!」
シアンはニコッと笑うとツーっと穴の上空へと飛んだ。
そして両手を空へと伸ばすと、漆黒の雲が生まれ、シアンを中心にどんどんと空を覆っていった。
レオは青くなった。またとんでもない事をやるに違いない。常識の通じないこの少女の行動は一体どうしたらいいのか? レオは混乱しながら少し気が遠くなった。
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