4-4. 制圧

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4-4. 制圧

 その晩、レオは超高層ビルの執務室でぼんやりと夜景を眺めていた。眼下に広がる商業施設やスタジアムは美しくライトアップされ、多くの人が行きかっている。そして工業地帯のプラントたちも元気に稼働しており、煙突の上からは炎が立ち上り揺れていた。  多くの人の笑顔が溢れる素敵な街……、それはレオの理想そのものだった。ついにレオは夢を実現したのだった。  しかし……。  本音を言えばすごく寂しかった。ハチャメチャだけど常に元気をくれたシアン、彼女に翻弄されながらもいろいろ工夫して尽力してくれたレヴィア……。もう、彼らはいないのだ。そして、実権を失ったレオにはもう仕事もない。  理想を突き詰めたら寂しくなってしまった。頭では理解していたものの、胸にポッカリと穴が開いたように何をする気も起らなかった。 「大人ならこういう時にお酒を飲むんだろうな……」  レオはボソっとそう言って目を閉じた。  コンコン!  誰かがドアを叩く。 「はい!」  返事をするとオディーヌが入ってきた。 「レオ、お疲れ様……」  オディーヌは静かに言った。 「終わっちゃったね……」 「この星も消されずに済んだし、大成功だと思うわ」  オディーヌもレオに並んできらびやかな夜景を眺めた。 「そうだね……。でもなんだか寂しくって……」 「私も同じ……。でも慣れなくっちゃ……」  二人はしばらく何も言わず、夜景を見ていた……。 「私も……、もう帰らないといけないわ」 「えっ!? オディーヌも行っちゃうの!?」  驚いてオディーヌを見るレオ。 「だって、私はアレグリスの国民じゃないわ。ここにいる法的根拠がないのよ」 「そ、そんな……」  オディーヌが建国に果たした役割は大きなものだったが、法治国家では例外は許されない。 「引継ぎが終わり次第、ニーザリに帰るわ」  目をつぶってうつむき、そう言った。 「そんなぁ! オディーヌ、行かないで!」  レオはオディーヌの腕をつかみ、泣きそうな顔で叫ぶ。  オディーヌはレオの手にそっと手のひらを重ね、涙を浮かべながら、 「あなたはもう国王なんだから、言葉は選ばないといけないわ……」  そう優しく諭した。 「僕を一人にしないでよぉ!」  レオはオディーヌの腕にしがみついて、ポロポロと涙をこぼす。  オディーヌは何も言わずそっとレオを抱きしめ、可愛いすべすべとしたレオのほっぺたに頬ずりをした。  成功して夢をかなえたはずなのに、全てを失ってしまうレオ。 「いやだよぉ!」  その運命の非情さに打ちひしがれ、レオはいつまでも泣き続けた……。        ◇  翌日、国会が始まると、自由公正党は軍備増強の特別予算案を提出し、即時に全会一致で可決された。  それを聞いてレオは真っ青になる。  アレグリスの憲法では他国への侵略は禁止している。アレグリスの工場で作られている兵器はこの星の兵器に比べて圧倒的に先進的で、侵略など容易(たやす)かったが、戦争による現状変更をレオが望まなかったため日本の憲法を真似してこのようにしたのだ。  そして、防衛するのであれば、すでに十分すぎるほどの軍事力を保有していた。  それなのに軍拡を推進するという、レオはそこにヴィクトーのおそるべき野心を感じた。  レオはすぐさまヴィクトーを呼ぶ。  ヴィクトーは呼ばれる事が分かっていたかのように、すぐに執務室にやってきた。  そして、部屋をぐるりと見まわして、オディーヌや零を一瞥(いちべつ)するとレオに堂々と言う。 「国王陛下、何かありましたか?」 「なぜ軍拡などするのですか?」  レオは単刀直入に聞いた。 「国王陛下の理想をすべての国に広げ、この世から貧困と奴隷を無くします!」  ヴィクトーは悪びれることもなくそう言い放った。 「侵略戦争はダメだよ! 多くの人が死ぬよ!」 「今、この瞬間も奴隷が過労や暴力で殺されています。彼らを救う事こそが死者を最小限にします!」 「そんなのは詭弁(きべん)だよ。アレグリスを成功させ、模範となって他国を少しずつ変えていくという話だったじゃないか!」 「そんな方法では何十年もかかります。武力介入すれば一瞬です!」  ヴィクトーはグッと力こぶしを握って言った。 「ダメダメ! 僕がみんなに声をかけてくる!」  レオがそう言って部屋を出ようとした時だった。ヴィクトーはパチンと指を鳴らす。  すると、武装した兵士が十人ほど部屋になだれ込んできた。 「キャ――――!」「うわぁ!」  オディーヌや零はいきなりの展開に悲鳴をあげた。  武装兵たちは銃口をレオたちに向け、執務室を一気に制圧したのだった。 「国王陛下、我々は国民代表です。国民が武力を望んでいるんです。国民主権、この国で一番偉いのは国民だってあなたが決めたんですよ?」  そう言ってヴィクトーはニヤッと笑った。  レオたちは両手を上げ、絶望の中拘束されたのだった。
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