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4-8. 暴力の発露
やがて、宿屋がすぅっと消えていく……。
レオは地下室へと戻された。
いきなり泣きじゃくるレオを見て、オディーヌはそっとハグをする。
オディーヌの温かい胸に抱かれながら、しばらくレオはすすり泣いていた。
「辛い目に遭ったのね……」
ゆっくりとうなずくレオ。
「かわいそうに……」
オディーヌは愛おしそうにゆっくりとレオの頭をなでる……。
柔らかく甘く香るオディーヌの匂いがレオを優しく包み、レオはゆっくりと自分を取り戻していった……。
落ち着くと零が優しく聞いた。
「大丈夫? 何かわかったかい?」
レオは静かにうなずいた。
そしてレオは何かを考えこみ……、ハッとして言った。
「大変だ! ニーザリにヴィクトーの軍が侵攻してる!」
「えっ!?」
青ざめるオディーヌ。
「僕、止めてくる!」
そう言うと、レオは指先で空間を切り裂き、ニーザリへとつなげた。
◇
ヴィクトーは千人の歩兵部隊を引き連れ、スラムの倉庫から一気に王宮へと侵攻していた。
しかし、道中の街は静まり返っていて、いつもの賑わいは無かった。
「ちくしょう! 誰か漏らしやがったな!」
ヴィクトーは悪態をつく。
しかし、グレネードランチャーと自動小銃で武装した部隊を止められる様な軍事力をニーザリは持っていない。あえて言うなら特殊魔術師部隊が気になるが、それでも千人を相手にできる力などなかった。ヴィクトーは予定通り侵攻を続けることにした。
ザッザッ! という規則正しい行進の足音が不気味に石造りの街に響く。
王宮へつながる中門まで来ると、城門が閉じていた。ここが閉じているのをヴィクトーは初めて見た。そして、城壁の上には弓兵や魔術師が待ち構えている。
「ゼンターイ! 止まれ!」
ヴィクトーは弓矢の射程距離の手前で手を上げると、大声で叫んだ。
ザッザッ!
歩兵たちはその場で二回足踏みをすると一斉に行進を止める。その一糸乱れぬ動作は、高い練度と忠誠心を感じさせた。
城壁の上の弓兵達とヴィクター達はにらみ合う。
「グレネードランチャー用意!」
ヴィクトーが叫ぶと、でかい対戦車弾頭のついた長い兵器を携えた兵士が四人出てきてヴィクトーの前に並び、城門に弾頭を向けた。
ヴィクトーはニヤリと笑うと、
「ニーザリ軍に告ぐ! これより城門を吹き飛ばす。被害を出したくなければ投降せよ!」
と、叫んだ。
しかし、弓兵たちは微動だにしない。それは死んでも降伏などしないという意思表示だった。
「撃ち方よーい!」
ヴィクトーが叫ぶと、兵士はひざをつき、安全装置を解除して照準を出し、城壁を狙って引き金に指をかけた。
と、その時だった、横の方から兵士たちの前に子供が走り出て、両手を大きく広げて叫んだ。
「ヴィクトー止めろ!」
それはレオだった。
「へ、陛下……」
ヴィクトーは予想外の妨害に動揺した。
「ヴィクトー! 殺してはダメだ! 僕たちの理想は人を殺しては叶えられない!」
レオは必死に叫んだ。
「何を言ってるんですか、陛下。この旧態依然とした搾取構造を破壊しない限り理想など夢です!」
「僕はテロリストたちのテロに遭った事がある。ひとたび人を殺せば憎しみは次の殺戮を呼ぶ。軍隊をどんなに強化したってテロリストは封じ込められない。アレグリスの街にテロの嵐が襲うぞ!」
ヴィクトーは返す言葉がなく黙ってしまう。
「もう一度ちゃんと話し合おうよ。話し合えばきっと理想は叶えられるから」
レオはヴィクトーに両手を差し出し、受け入れる姿勢を見せた。
ヴィクトーはうつむき、しばらく何かを考える……。
そして意を決すると、レオをにらみ、叫んだ。
「お前は陛下じゃない! 偽物だ! 目標、陛下の偽物! 撃ち方よーい!」
なんとヴィクトーはレオを拒絶し、攻撃にうつったのだ。
しかし、レオは一歩も引かない。
真一文字に口を結び、両手を差し出したままだ。
兵士たちはお互い顔を見合わせながら、本当に命令を聞いていいのかオロオロしてしている。
「腰抜けが! 貸せ!」
ヴィクトーはグレネードランチャーを兵士から奪い取ると自分で構え、レオに照準を合わせた。
「ヴィクトー! 止めろ! なぜ分かってくれないんだよぉ!」
レオは泣き叫ぶ。
「自由の国、アレグリス、バンザーイ!」
ヴィクトーはそう叫びながら引き金を引いた……。
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