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「──お世話になりました」  荷物を抱えて僕、太陽はは頭を下げた。職員さんは目元にうっすら涙を浮かべながら何度も「良かった……」と繰り返す。 「太陽くん、元気でね」 「うん」 「これからも勉強頑張って」 「たくさん好きなことしなさいよ」 「勉強……うん……」  和やかな笑い声が春空の下、柔らかく響いた。  早朝。園庭で僕と職員さんで最後の会話をしていた。  僕は今日、太陽の家を卒園する。  あの後、何度もトライアルや児童相談所の職員さんが面接を繰り返した結果、僕は関口家の一員になることが決まった。  苗字の変更や転校などのタイミングもあったため、当初の予定よりやや遅くなったが小五になる春に引っ越すことに決まった。  そして、この門の外には──目をやると二人が手を優しく振ってきた。少し照れくさいけれど手を振り返して、職員さんの方へ身体を向ける。 「本当に、僕を育ててくれて、居場所を与えてくれて、ありがとうございました!」  深々と頭を下げると拍手が優しく響いた。  日向くんの生まれ変わりかは分からないけれど、関口家は僕にとって居心地の良い場所だ。  肉親に絶望し、僕を待っていたのは同じ名前の養護施設、そして新しい家族。  微笑んで門を開ける。太陽が輝いて差し込んできた。  もう一度、礼をして二人の元へ歩み寄る。 「ただいま、お母さん、お父さん!」 「お帰り、太陽」  二人と手を繋いで駅へ向かう。「お父さん、お母さん、日向くん、ありがとう」小さくつぶやいた。  ひらひらと桜の花びらが舞い、太陽は柔らかく僕らを照らしていた。
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