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逆光の中、知らないおじさんの口がぱかっと開いた。表情は暗くて、よく分からない。でも、悲しんでいないことだけは分かった。
「残念だったな。君のご両親は亡くなった」
僕は黙ってうなずいた。母さんと父さんが死んでも何も変わらない。どうでもいい。ちっとも悲しくない。
「悲惨な事故だったな」
確かに、親の死に方はどこか異常だった。大人たちはコソコソと断片的に葬儀中話していたが、耳をすませれば大体想像がつく。
自分で言うのもなんだが、学校では、中野太陽という名の通り、クラスの中心にいる、太陽的な存在だ。
だが、家では全く違う。家には光がない。真っ暗である。
*
僕は跳ね起きた。嫌な汗をかいている。
親と死別して約二年。未だ不安な事があるとこの夢を見る。
真っ暗な部屋は僕を除いた二人分の寝息が静かに鳴っていた。
ここはごく一般的な家ではない。
児童養護施設・太陽の家に僕は住んでいる。
両親の死後、僕の家は、同じ名前の施設になった。施設自体は大きいが、新設という事で全体で十二人。空き部屋がまだ多いが埋まって欲しくはない。埋まるということは、それだけ親との間に重々しい何かがあるということだから。
寝返りを打つ。目が慣れてきたのか白い壁が仄かに灯っているように見えた。
『太陽くん、君を家族にしたいっていう申し出がきたの』
職員さんがそう言った数日後、家族希望者の人と面会した。今から二週間前のことだ。
職員さんの詰所である事務室の奥にある面談室で職員さんをいれての面会だった。
結論から言えば、面会はあっさりと終わった。希望者の夫婦は優しげで、経済状況など引き取る条件も満たしている。
トライアルをし、相性を見るが、要は、僕次第なのだ。そして、そのトライアルが明日、行われる。
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