<3・Change>

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 *** 「お嬢様、早く着替えてください!学校がなくても、お父上の講義があるのはお忘れですか!?」  混乱を収める間もなく、部屋に飛び込んできたメイドにせっつかれてしまった。お下げ髪のメイドのミリア。コーデリアより一つ年下であり、階級を飛び越えて親しくしている召使いの一人である。彼女に手伝って貰ったものの、ドレスを着替えるのに随分手間取ってしまった。  顔を洗って髪を直して、ということをちゃんと終えるまで三十分。髪の毛はあまりにもぐちゃぐちゃだったので、業を煮やして部屋に飛び込んできたメイド頭にどうにかアップしてもらうことでこと無きことを得たのだった。――これはぶっちゃけ、長年勤めているのにいつまでも不器用なミリアにも問題はあったと思うが。  メイドのミリア。ベテランのメイド頭、シェリー。彼女らが名乗らなくても、名札をつけていなくても判別は容易い。バタバタしている間に思い出してきたからだ、ロイヤル・ウィザードの設定を。ミリアもシェリーも、主人公であるコーデリアとの親密度が設定されているキャラクターである。恋愛シミュレーションとかではないし同性なので、あくまで親密度によって最終バトルの結果に影響が出たり、ストーリーの選択肢が変わったりするというものであったが。 ――ミリアとシェリーまで出てきたってことはこれ、決定的だよね?……私、ほんとにロイヤル・ウィザードの世界に来ちゃったの?こんなことってあんの?やっぱりこんなの、都合のいい夢かなんか、だよね?  思い出してきた。確か自分は、瑠子と居酒屋で飲んだあと乗り換え駅のホームでヘバってて、そしたら妙な光る球体を見つけて追いかけたのではなかったか。そしたらうっかり、反対側のホームから足を踏み外して転落し、そこに電車が来てしまった――という流れであったはずである。  光る球体、というのがおかしい。しかも、あの時周囲からまったく人がいなくなるというホラーな現象が起きていた。ならば一番合理的に考えた場合、酔っ払った自分が眠りこけて夢でも見ているだけと考えるのが一番自然だろう。電車に轢かれたかもしれない、なんて事実を信じたくないというのもあるが。  そもそも。電車に轢かれて異世界転移や異世界転生をやらかした、なんて。そんなのライトノベルじゃあるまいし、現実にあるわけないだろうとツッコミたいのである。百歩どころか千歩、いや万歩譲ったところで、何故自分がプレイしていたゲームの世界の主人公に成り代わってしまうなんてことになるのか。ゲームはゲームだ。それが都合よく異世界として存在し、あまつさえ自分が死んでそれに突っ込まれるなんてあまりにも出来すぎている。 ――少なくとも。異世界転生、はないな。  ミリアとシェリーに連れられて廊下を歩きながら、朝香は結論を出した。 ――転生したっつーなら、十七歳の姿からスタートなんてあるわけないでしょ。十七歳ってのは、ゲームのスタート時のコーデリアの年齢だし。……ここがゲームの世界だから、それ以前の“歴史”がそもそも存在してないと思ったほうがしっくり来る。
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