<3・Change>

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 だからもし。もしも本当にこれが夢や幻、自分の妄想でないのなら。自分はコーデリアの姿に変わってしまった上で異世界転移をしたか、あるいはコーデリアに憑依して人格を乗っ取ってしまった可能性が濃厚ということになる。ゲームの世界がなんで実在しているのか、ということについても大いに疑問だ。ひょっとしたら、誰かが日本で人気のあのゲームの世界を、バーチャル空間にでも再現して作り上げた――なんてこともあるのだろうか。  いや、仮に作られたのだとしてもだ。それならそれで、罪悪感がやばいことになってしまう。自分は現代日本のOL、小森朝香だ。断じてコーデリア・ウォルビーではない。自分が成り代わったせいで、本来のコーデリアの魂を殺してしまった、あるいは追い出してしまったかもしれないとしたらなんて恐ろしいことなのか。 ――夢だ。これは夢、これはきっと夢。だからそんな、細かいこと考える必要ないのかもしれない、けど。  窓から吹き込んでくる秋の風が気持ちいい。頬を撫ぜ、髪を靡かせる涼しい空気。歩きにくいドレスとヒールの高い靴に、ちょっと苦しいコルセットの感触。何から何まで、夢とは思えないほどリアルである。夢だ夢だと言い聞かせても揺らぎそうになるのは、つまりそういう理由だった。自分のほっぺを抓っても普通に痛かったから尚更である。  混乱しすぎて、まだ完全に考えがまとまっていない。  異世界転移なんて、ゲームの世界の侯爵家令嬢になってしまうなんて、そんなことあるはずがない。あるはずがない、けれど。 「お嬢様、そういえば魔導書はちゃんと持ってきてますよね?黒の書と白の書の両方ですよ」  シェリーが振り返って言った。 「お嬢様はまだ見習いですから、大きな魔法は使えませんけど……今後学んだ魔法は全て、魔導書に書き込んで発動させるわけですから。必ず肌見放さず持っていてくださいね。なんなら、お父上の講義を受ける前に、初期魔法のデモンストレーションをしますか?」 「え?……ええ、そうね」  その台詞には覚えがある。ありすぎた。コーデリアになってしまった朝香の背中に、冷たいものが走る。 ――間違いない。これ、ゲームの第一章のチュートリアルだ……!  これは自分の記憶をなぞっているだけの妄想か、あるいは誰かに仕組まれた現実か。  いずれにせよ、確かめる他ない。この“夢”から醒める方法が、現状で見つかっていない以上は。
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