<4・Tutorial>

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 ゲームの中に入って、特別な経験ができるということ。アニメやマンガの世界で、異世界転生者がその楽しさに魅了されてしまうというのもわかる気がする。憧れたキャラクターたちと話せる、夢のような魔法や貴族の世界でドキドキワクワクの生活ができる。まるで魔力のような魅力が、この世界にはあるだろう。いつもの日常を退屈だと思ったり、辛い仕事や学校、現実から逃げたいと思っている者ほど尚更魅力的に映るに違いない。 ――それでも、忘れてはいけない。私はコーデリアじゃなくて、日本で生きる小森朝香なんだから。小森朝香を捨てたらもう、それは私じゃないんだから。  もし自分があのままホームから転落して電車に轢かれ、挽肉になって転生したというのなら。どんなに足掻いても元の世界に戻れないし、戻ったところで生きるための肉体は失われているだろう。しかし現状、異世界転生と考えるならおかしな点が多すぎるのも事実だ。何故、都合よくゲームの世界なのか?何故スタートが赤ん坊ではなく十七歳のコーデリアなのか?転移か転生か、あるいはそう思い込んでいるだけのただの夢なのか、それともそういうものを意図的に見せられているのか。それさえわからないのでは、正直対処のしようがない。  とりあえず、希望があるうちは元の世界に帰ることを諦めるつもりはなかったし、諦めていいとも思ってはいなかった。この世界がいくら魅力的でも、ここは自分が生きるべき世界ではないのは事実なのだから。 ――とりあえず、暫くはシナリオ通りに動いて、この世界が本当にゲームなのかを確かめないと。……ただの夢なら、あっさり眼がさめるようなこともあるかもしれないけれど。  何だか、嫌な予感がしているのである。  そもそも本当に夢だとしても。そこで受ける痛みが現実と変わらなく、夢から醒める方法が見つからないなら、それは現実とさほど変わらないのではないか。  そもそも、ホームから転落する前の段階で、妙な幻覚を見ていたのも気になる。ただ酒に酔って幻を見ただけにしてはクリアであったし、内容も唐突過ぎる。おかしな力が働いているのかも、なんて非現実的なことを頭から信じているわけではないが。 ――……深刻なことなんか、何もないといいけど。ていうか、元の世界に帰れなくて、お父さんやお母さん、瑠子に悲しい思いをさせるのも嫌だし……。  ちなみに。  ドレスを着るのに時間がかかりまくったせいで、既に講義の時間に遅刻していたと気づくのは“お父上”の雷が落ちてからのことだった。この世界も、大概理不尽である。
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