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ここで少し、主人公であるコーデリア・ウィルビーとその設定について解説しておくものとする。
そもそもこの世界では、魔法は“存在するものの廃れつつある”という設定だった。文化基準としては、現代の十五世紀から十九世紀くらいのヨーロッパくらいに該当するらしい。なんで四世紀も振り幅があるかといえば、それらの時代のあるものとないものがごっちゃになっているから、とのこと。流石に携帯電話の類があるほど文明が進化しているわけではないが、蒸気機関車とガソリン車が一長一短として共存しているあたりでお察しだろう。
他にも独自の科学や文明が存在するようだが、細かなところはひとまず割愛する。確かなのは、この世界が“武器と兵器の類だけは異様に発展した”世界であるということと、魔法が忌むべきものとして廃れたということだ。武器だけで言えば、なんと第二次世界大戦で見かけるような戦艦や巡洋艦、戦車や航空機の類があるというから恐れ入ることである(つまり、一定以上の高い水準の乗り物の技術等を政府が独占していることを意味している)。そうなったのには、当然理由があった。かつてこの世界は、科学派と魔法派で派手な戦争をしていたからだ。
科学こそ人々の叡智と主張する科学派の人間達と、魔女の末裔を中心とする魔法推進派。魔女たちが力を持つ自分達こそ特別だと主張したことも相まって、二つの勢力の中は拗れに拗れた。最終的には、大規模な科学と魔法のぶつかりあいに発展。魔女狩りと科学者狩りが各地で起き、大勢の人命が失われる結果になったのだった。
ウィルビー家の先祖である、ヒストリア・ウィルビーもまた“円環の魔女”の二つ名を持つ優秀な魔女だった。その膨大な魔力と多彩な魔法で科学派を追い詰めたものの、次第に物量の差がものを言って辺境の地へと追い詰められる結果になってしまう。元より、科学派の方が圧倒的に人数が多かったのも敗因であったことだろう。
そして、最終的には捕まって火炙りになった。それ以外のウィルビー家は辺境の土地で暮らすこと、全ての魔導書を焼き捨てて魔法を捨てることを条件に政府に見逃され、永遠の監視対象となることを条件に生きることを許されたのである。その監視は、今でも解かれていない。便宜上は侯爵などという上級貴族の地位は貰っているが、それがほとんど名ばかりの称号であることをコーデリア達はよく知っているのである。
――だからこそ、コーデリアや両親は、この一族の復権を虎視眈々と狙っている。魔法の力を、陰でひそかに研究し続けながら。
朝香は壁に飾られた肖像画を見た。
ヒストリア・ウィルビー。金色の髪に赤い目、という姿はコーデリアにもよく似ている。不思議なことに、ウィルビー家に生まれる女はみんな金髪赤目になるのだそうだ。ヒストリアの血を受け継ぐ魔女、それを証明するかのように。
――綺麗な人。コーデリアも美人だけど、もっと大人の女性ってかんじ。……こんな綺麗な人を火炙りにしちゃうんだもんなあ。
赤いドレスを纏って微笑む女性は美しい。しかしその美しさも含めて、当時の科学者たちにとっては脅威だったのだろう。通常魔女狩りで捕えられた魔女たちは、拷問されることこそあれ、殺される時は一思いに絞首刑に処されることがほとんどだ。そのあとに火刑にされ、遺体を燃やされる。魔女の躯は炎によって浄化されなければならない、そして遺体が残っていなければ審判の日に復活できないとされる、この国の宗教上の理由だった。そんなところだけ無駄に史実の魔女狩りに寄せなくても、とちょこっとだけ思った朝香である。
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