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「該当の魔導書がなくなった……なんてことはないですよね?」
「…………」
「お父様!」
「……その通りだ」
「ちょ」
大問題ではないか。青ざめる朝香を見て、だ、大丈夫だ!とちっとも大丈夫そうではない顔で言うアダム。
「この地下室の鍵はかかっていたし、屋敷におかしな侵入者などない!そんなものがいたら警備が気づかないはずがないからな。行方不明になったのも、初級の白魔法の魔導書だけだ。多分うっかり別のところにしまってしまっただけだろう。盗難なんてものがあったなら、あんな価値の低い魔導書だけ盗んで他のものは手つかずなんて、そんなことあるわけないからな!大体、白魔法の棚は書庫の奥にあるわけだし」
「そういう問題じゃないでしょ!急いで探さないと!」
「わ、わかった!探す、探しておくから、な!!」
魔導書の存在がバレたら、その時点でこの家が取り潰しになる可能性も高い。というか、それこそ極端な話人を殺してでも流出させてはならないヒミツの類だ。鍵がかかっていた地下の書庫から、そうそう魔導書が盗めるとは思えない、が。本来あるべき場所に本がないという時点で十二分すぎるほど大問題である。
「私も一緒に探します、デートしている場合じゃないので!」
父親相手にキツい物言いをしているのはわかっているが、それでも言わずにはいられない。跡取り娘なのだから当然といえば当然だ。幸い、ゲームの内容は熟知しているし、ストーリーが進行していけば魔導書を保管する書庫にも入れるようになる。目ぼしい本がどの位置にあるのか、は把握済みだった。第一章の段階の本来のコーデリアは書庫に入ったことなどないが、こちとら中身は現世の一般人、コーデリアが本来知らないはずのことも知っているのは確かである。
「そ、それは駄目だ!お茶会には行ってくれ、向こうの機嫌を損ねるわけにはいかない!」
アダムは少々情けない声を上げた。
「コーデリア、お前も分かっているはずだ。ミューア家との関係は良好に保たなければならぬし、万が一にも婚約解消などあってはいけない。そうだろう!?」
彼が気にするのには、当然理由がある。ジュリアン・ミューアとコーデリアは相思相愛の恋人同士ではあるが、元々は親が決めた結婚であるのも事実なのだ。物心つく頃には、双方が婚約者として定められていた。その後ともに時間を重ねるごとにコーデリアはジュリアンの優しさに魅かれて行き、二人は相思相愛の関係まで発展するのだが――仮に相性最悪であったとしても、結婚を成功させなければいけない理由が両家にはあったのである。
どちらも侯爵家。貴族としての表向きの地位は非常に高い。が、どちらの家も訳ありなのである。
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