<1・Grumble>

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 ***  そもそも、コーデリアはこの世界の人間ではない。というか、コーデリアの中にうっかり入ってしまった人物がそうだった、と言う方が正しいだろうか。  現代日本で過ごしてきたOL、小森朝香(こもりあさか)。それが、うっかりコーデリアに異世界転移、もしくは異世界転生してしまった人間の本名である。何故転移なのか転生なのか疑問符がつくのは、世界を飛ばされた瞬間を朝香がよく覚えていないからだった。  話は、その異世界転移やら異世界転生やらが起きる前まで遡る。  その夜、朝香は居酒屋でくだを巻いていた。あまりにもショックな出来事があって、飲まずにはいられなかったがために。 「推しが!死んだ!!」  ジョッキをテーブルに叩きつけ、思わずシャウトした。 「何でなん?何で推し死んでしまうん?私が推すとかたっぱしから推しが死んでく法則なんなん!?これが人がバッタバッタ死ぬデスゲームとかバトルものならまだわかるけど、スポーツモノでも事故で死んだしカードゲームアニメでさえうっかりリアル死亡したんだけど!まさかカードゲームで凍死するなんて結末誰が予想するよっ!?」 「朝香って、なんていうか……不幸の匂いがするキャラにばっかり魅かれるよね。鬱の気配がすると萌えるタイプでしょ。だからじゃない?」 「鬱キャラだらけのデスゲームアニメでも、つい先日推しだけがピンポイントで死んだんですがそれは?」 「ごめんあたしが悪かった」  愚痴を言っている相手は、同じ会社に務める同僚にして大学時代からのオタク仲間、田中瑠子(たなかるこ)だった。アニメ、ゲーム、ライトノベル。多くの方面で好きジャンルが一致し、時には夏や冬の祭典にリュックサック背負って共に凱旋する仲である。まあ、朝香が腐女子(時々男女CPにも萌える)系であるのに対して、瑠子は基本的に夢小説好き。好きCPが重なることはまずあり得ないので、ほぼ語り合うのはキャラの単品萌え妄想ばかりであったが(相手が地雷好きでも、好きを押しつけてこなければ特に問題ないというスタンスだったのである)。  ちなみに、今語っているのは某カードゲームアニメの話。  まさか最初期から登場した主人公のライバルキャラが洗脳されて闇堕ちした挙句、最終的に主人公を守る為呪いの扉の向こうに取り残されて氷漬けになって死ぬなんてどうして想像できようか。しかも、これカードゲーム。カードゲームで人が死ぬ展開は昨今普通なのかもしれないが(ていうか普通になってきているのもなんかおかしいのだけれど)、ゲームに敗北して死ぬならともかく、敵キャラとのゲームに勝利したのに死ぬなんてまったく考えもしていなかったことである。  何故だろう。何故、自分が萌えたイケメンキャラは、軒並み不幸な過程を辿って死ぬ結果になるのだろう。これから先に、主人公の回想でしか出てこないなんて悲しすぎる――朝香はおいおいと涙を流した。
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