34人が本棚に入れています
本棚に追加
「いいよね、瑠子の推しにはまだ生きてるヤツがいて。“ミニーハーツ”の凛久も生きてるし、卓球の王子様の王城も生きてるじゃん……推しの死亡率が六割しかないなんて羨ましすぎる」
「……六割も相当高いと思うんだけどね」
大人になっても学生と勘違いされかねない童顔である瑠子は、やや引き攣った笑みを浮かべた。まあ、自分でも感覚がマヒしてきている自覚はある。でもって推しの最期が美しければそれもそれで萌えてしまう面倒な質だというのも。
だが最大の問題は、死んでしまうとその推しの出番がめっちゃ減るということなのだ。
カードゲームアニメ『闇の決闘王』はまだまだ続くのがわかっているのに、残りの話数を推しの出番ナシで見なければいけないなんて、あまりにも辛すぎるというもの。
「……闇の決闘王の話だけじゃないんだよ」
二十代後半の女にしては、みっともない有様になっているとわかっている。それでも酔った頭で、外聞を気にする余裕があるはずもない。ぐずぐずと鼻を慣らしながら朝香は顔を上げた。
「この間、瑠子がオススメしてくれたゲームあったでしょ。“ロイヤル・ウィザード”。あれも全クリしたんだけど」
「え、朝香もうクリアしたの?仕事あったのにどうやって?」
「そりゃもうゲームのためならば二徹や三徹……」
「寝ろ」
「う、うっさいな!とにかくクリアしたんだけど……そこで一番好きになったキャラ、メインヒーローの“ジュリアン・ミューア”だったんだよね」
ロイヤル・ウィザードとは。乙女ゲー大好きである瑠子にしては珍しく、それ以外のジャンルでドハマリしたと宣言したゲームである。主人公はコーデリア・ウィルビーというお嬢様。ジュリアンはこのコーデリアの婚約者として登場する。これだけ聞くとよくある中世ヨーロッパのシミュレーションゲームのようだが、実はこのコーデリアは某国に代々伝わる魔女の一族の跡取りという設定なのだ。まだ十七歳のコーデリアは魔法の技術が未熟であり、プレイヤーはコーデリアを鍛えて立派な魔女に育てつつ、ジュリアンや仲間たちとの絆を深めていくのである。
そして最終的に起きる、魔女狩りの勢力との決戦を勝ち抜き、ハッピーエンドを目指すという話なのだ。要するに、キャラゲー要素と育成要素、バトル要素を三つ兼ね備えたゲームであり、女性のみならず男性でも楽しめる仕上がりとなっているのである。キャラグラフィックが美しく、魔法の演出も華麗というのもまた魅力の一つと言えるだろう。
ちなみにイケメンキャラはジュリアン以外にも存在するし、可愛い女の子キャラもコーデリア以外に複数登場してくる。最終決戦に挑むパーティも、コーデリア以外は自由に決めることができる仕組みだ。勿論朝香の推しキャラはジュリアンだったので、絶対にジュリアンだけは外すものかと心に決めていたのだが。
「よりにもよって最後の最後で、男主人公ポジのジュリアンがコーデリア庇って死ぬとかある!?ハッピーエンドの流れだったのにあんまりじゃん!私か、私が推したせいなのかあああ!」
まあ、ようするにそういうこと。
最初のコメントを投稿しよう!