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「なんていうかさ。コーデリアを一生懸命守ろうとする健気で一途なところも含めて、ジュリアンの魅力だと思ってるわけ。それを無視したら、ジュリアンがもうジュリアンじゃないんだよ。元々男らしいというより、大人しくて可愛い系だったジュリアンがさ。コーデリアが子供の頃、勝手に秘術の実験をしようとして危ない真似をした時……命がけで助けてくれた上、ひっぱたいて叱った回想あったでしょ?ああいうことができる人なんだ、っていうのが私はすごく魅力的だと思うんだよね。誰かを守る為にはどこまでも男らしくなれるし、大好きな婚約者のやることのイエスマンでもない。間違っていることは、ちゃんと勇気を持って間違ってるって言える。まさに理想のイケメンじゃんか」
そして、そういうジュリアンの魅力を引き出せるのは、他でもないただ一人なのだ。他のキャラクターでもなければ、実在もしない夢ヒロインでもない。
「ジュリアンの良いところを引き出せるのも、コーデリアがいてこそ。だから私はジュリアンが推せるし、むしろコーデリアとセットで推せる。二人で幸せになって欲しかったんだよね。……瑠子もそうなんじゃないの?」
そう話を振ったのは、他でもない。瑠子もジュリアンが一番の推しであると言っていたのを覚えていたからだ。
「……そうだね。ジュリアンがあんな風に笑うの、コーデリアの前だけだもんね」
だから複雑なんだよ、と瑠子はカルピスサワーを飲んだ。
「それがわかっていても、夢女子としてコーデリアに嫉妬しちゃうところもあるのよ、あたしは。あそこにいるのが、なんであたしじゃなくてコーデリアなんだろうって。……まあ、どっちみちゲームのキャラと言われたらそれまでだけど、液晶の壁飛び越えて自分をつっこむ妄想をするのがそもそも夢女子ってやつだしさ……。元いたキャラ同士で萌えるあんたとはそこが違うっていうかさ」
「まあ、それもわかるけどね」
「何にせよ、悲しいのは間違いないよね。何でジュリアン死んじゃうんだってあたしも思ったし」
「ほんとそれな!」
瑠子となじみの居酒屋で推しの魅力を語りつつ、推しが死んでしまった悲しみを愚痴る。仕事終わりの朝香の、ごくごくありふれた光景だった。今日もいつもと同じように好きなだけぶっちゃけて、一日が終わるはずだったのである。
そう。
“あんなもの”に、出逢うことさえなかったのなら。
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