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(どうして……?)
「直接……買いにいくから。」
「…え?メーカーに??」
「めーかー?……酒蔵のこと?」
「フランスに行くんですか?」
首を縦に降ると、髪が前に全部来て頭を後ろに戻せない。
(あれ。……おれ、よってるかも)
戻らない頭を、佳史さんの手のひらがデコを抑えて肩に戻してくれる。ついでのように髪を分けられて、シャンデリアの明かりが目に直接入ってきて眩しい。
「……え!?ちょっと……え!!まさかの、美形!!」
急にトシ君の大きな声が聞こえて、眉を顰めていると、案の定琴根さんから怒られている。
「……だめ。」
慌てて、片手で髪を前に集めると、その手を掴まれる。!
「隠してるのか?」
佳史さんの顔が覗き込むようにこちらを見てる。
(こりゃ……モテるワケだ。)
「……うん。」
「指輪も嘘だろ?」
(……失礼なやつだけど。)
「……うん。」
(何で童貞……バレたんだろ?)
童貞臭いとか言うけど匂いでもあるのかと、こちらを覗き込む瞳を見ながらぼんやり考えていると、「気に入った」という言葉が落ちてくる。
「……へ?」
「ちょっ!ちょっと!!佳史。お前……」
琴根さんが慌てていて、どーいうことか反芻するも、頭が追いつかない。
トシ君を振り返ると、まるで何も聞いていなかったかのように、ニコニコと微笑んでモエのボトルを抱きしめている。
「……トシ君?」
「もー1本飲みたいなー。」
琴根さんと吉住さんが、2人揃ってトシ君の方を向く。
「あ。嘘でーす。はーい。ごめんなさーい。」
180°違う事を言いながら俺に泣きつくトシ君に、クスクスと笑いが止まらなくなる。
「いいよ。飲んで。ちゃんと美味しく飲んでくれるなら、入れていいよ。」
「大丈夫なのか?」
何の心配なのか言わなくても分かる。確かに、予定もなくそんな金額は持ち歩かない。
ゴソゴソと財布を取り出し、カードを抜こうとするが、もたついて上手く取れない。
「……もういい。分かった。」
「分か……?」
「ああ。その、1枚で十分だ。」
財布に置かれた手が、そのまま財布を閉じて渡してくれる。
「えー。俺ちゃんと見たいッス。まだ『上限無し』なんて見た事ないっすよ!!」
「大丈夫だ。トシ。お前は当分縁のないカードだ。……ほら、今度はちゃんとコール入れてもってこい。」
「……ぇ……やっ」
「大丈夫。俺がいるから。目立つのはお前じゃない。お前は黙って見てろ。」
「やった!!俺、VIPでコール初っす!!」
トシ君がこれ以上ないくらいに喜んでいるのを見ると、こちらも嬉しくなる。
「少し飲ませすぎてしまいましたね。」
琴根さんがそう言って飲み物を新しくする。
「これ、うちのホストが飲みすぎた時に作るんです。」
「それ飲んで大人しくしてろ。」
甲斐甲斐しく世話をやかれ、ここに通う女の子の気持ちが少しわかる。
「ありがと……」
お礼を口にするのと、ついに眠気に負けてしまうのは同時ぐらいだった。
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