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閑話
「え。寝ちゃいました!?」
いそいそとボーイを呼んでいたトシが焦ったように三岳に顔を寄せる。
「結構飲ませてしまいましたからね。」
「ぇぇぇぇぇぇ!……俺のコール……」
「トシ。仕事の席で飲もうとする、お前が悪い。コール無しでも、ボトルが入るだけ有難く思え。」
どんな教育をしてるのかと怒られる前に、先手を打っておく。けれど、叱責されること無く佳史は楽しげに店内を眺めていた。
「ご機嫌ですね。」
「そうか?」
「新品・美形・高収入の三拍子ですからね。悪い癖が出ないわけが無い。」
嫌味でひとつ釘を刺してみるが、眉をあげて楽しそうに笑う顔を見ると手遅れだなと感じる。
気だるげにソファーにもたれかかっても、絵になるってしまうこの男は、見た目通りの中身の持ち主だ。
良いものを見分ける力に長けていて、その全てが自分の物になると思っている。初めて出会った時は傲慢だと感じていた。それでも、否と言えない引力を自分も身に付けたくて、そばに居た。その時間の分だけ、尊敬の気持ちを抱いてしまう友人。
(ただ……)
当たり前のように、三岳さんを肩に抱いているが、三岳さんは決して小さくない。いつもビール瓶を2ケース軽々と持ち上げる筋肉もあるし、
上背もしっかりとある。
(男にまで……見境がない)
「三岳さんどうするんですか?」
「持って帰るさ。」
「……せっかく三岳酒屋で新店の酒も任せられるというのに、下手を打たないでくださいよ?」
「誰に言ってる?」
余裕そうに笑う男の顔はどこから見ても崩れることはなく、少しだけ同じ男として腹が立つ。
知っている限り佳史が男との恋愛をしている気配は、今まで1度もない。俯いて、微かに寝息をたてている三岳さんは、今まで話してきたかぎり、佳史のように危険な男を好むタイプではなかった。
(……取り引きに影響しなければ、多少痛い目を見るといい。)
尊敬はしている。けれど、嫉妬と焦燥も少なからずある分、少しだけこのフェイスが崩れるところが見てみたい。
(……ふふふ。佳史が彼にを手に入れようとする隣で、こちらは友情でも結んでみようか)
特別なショーは、特等席で見なくては。
「では、私は仕事に戻りますね。そっちは仕事にならないでしょうから、せめて店内の嬢を煽ってボトルでも入れさせてくださいね。」
どうせろくな返事はないと、振り返らずに席を立った。
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