閑話

1/1
前へ
/16ページ
次へ

閑話

「え。寝ちゃいました!?」 いそいそとボーイを呼んでいたトシが焦ったように三岳に顔を寄せる。 「結構飲ませてしまいましたからね。」 「ぇぇぇぇぇぇ!……俺のコール……」 「トシ。仕事の席で飲もうとする、お前が悪い。コール無しでも、ボトルが入るだけ有難く思え。」 どんな教育をしてるのかと怒られる前に、先手を打っておく。けれど、叱責されること無く佳史は楽しげに店内を眺めていた。 「ご機嫌ですね。」 「そうか?」 「新品・美形・高収入の三拍子ですからね。悪い癖が出ないわけが無い。」 嫌味でひとつ釘を刺してみるが、眉をあげて楽しそうに笑う顔を見ると手遅れだなと感じる。 気だるげにソファーにもたれかかっても、絵になるってしまうこの男は、見た目通りの中身の持ち主だ。 良いものを見分ける力に長けていて、その全てが自分の物になると思っている。初めて出会った時は傲慢だと感じていた。それでも、否と言えない引力を自分も身に付けたくて、そばに居た。その時間の分だけ、尊敬の気持ちを抱いてしまう友人。 (ただ……) 当たり前のように、三岳さんを肩に抱いているが、三岳さんは決して小さくない。いつもビール瓶を2ケース軽々と持ち上げる筋肉もあるし、 上背もしっかりとある。 (男にまで……見境がない) 「三岳さんどうするんですか?」 「持って帰るさ。」 「……せっかく三岳酒屋で新店の酒も任せられるというのに、下手を打たないでくださいよ?」 「誰に言ってる?」 余裕そうに笑う男の顔はどこから見ても崩れることはなく、少しだけ同じ男として腹が立つ。 知っている限り佳史が男との恋愛をしている気配は、今まで1度もない。俯いて、微かに寝息をたてている三岳さんは、今まで話してきたかぎり、佳史のように危険な男を好むタイプではなかった。 (……取り引きに影響しなければ、多少痛い目を見るといい。) 尊敬はしている。けれど、嫉妬と焦燥も少なからずある分、少しだけこのフェイスが崩れるところが見てみたい。 (……ふふふ。佳史が彼にを手に入れようとする隣で、こちらは友情でも結んでみようか) 特別なショーは、特等席で見なくては。 「では、私は仕事に戻りますね。そっちは仕事にならないでしょうから、せめて店内の嬢を煽ってボトルでも入れさせてくださいね。」 どうせろくな返事はないと、振り返らずに席を立った。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加