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歪な人間
暖かい。
気持ちがいい。
いい匂い。
コレは好き。
もっと……
もっと。
感じた事のない幸福感に思わずすがりついてしまう。その手を取られて、さらに深く抱き締められると、このまま二度と離れなければいいのに……と思ってしまう。
……抱き締められ??
「…っ!」
慌てて身を起こそうとすると、強い力で引き戻される。
「…っ……誰っ」
一瞬で現実に引き戻される感覚に、強い目眩を感じながらも周りを見渡すと、しなやかな腕の向こう側から佳史さんの瞳が現れて、ひゅっと喉が閉まって息が止まってしまう。
「起きたか。今……何時だ?」
腰に腕を回されたまま、携帯で時間を確認している。
「な、んで……俺。……ここは?」
何とか言葉を紡ぎながら、視線を四方に巡らせて情報を必死にかき集める。けど、それも、
自分の肢体に辿り着いた時に、なにも考えられなくなる。
(はっ。は。は。……はだかっ!!?)
慌てて足にかかっていた布を引き上げて、その中に出来るかぎり入ろうとする。
「おいっ。……なにしてる。どうした?」
声のする方に目を向けて、さらに凍りつく。
「な。なっ。な……で!はだかっ!!」
今度は脳内で収まりきらず、声にそのまま出してしまい、泣きそうになる。
なんで。なんで、この人の前だと、きちんと出来ない?仮にも学生の頃はクラスの中心にいたし、仕事だって半分は接客業だ。大体の事は頑張らないでも出来てしまう。本当は酷く根暗な人間でも、その欠片ひとつ見せずに何年も過ごしていたのに……
「っふ。落ち着けよ。何でも無いよ。ただ、俺が外で着た服でベットにあがられなくなくてね。悪いけど、脱がせた。」
「……え。ここ……」
「悪いな。昨日はお前の素性を確かめたくて、酔わせてしまったからな。お詫びにちゃんと介抱したから……許せよ?」
そう言って抱き締められる。
「はっ。いや……ちょっ……離れて」
「なんで?寒いだろ??……まだ寝てろ」
「あのっ。俺!男だ!……女じゃねぇ」
胸に手をついて肘を伸ばす。どれだけ詰まったケースを運んでも平気な腕が、小さく震えているが見えて、ゾッとする。
「え?普通だろ?友達と寝る時とか。」
「えっ!??」
思わず顔を上げてしまう。両手首を捕まれ、腕を折り曲げられる。当たり前のように抱きしめられて、見開いて閉じられない瞳を覗き込まれる。
「普通だろ。俺も6時に起きるから、後で起こしてやる。寝てろ」
あやすように背を撫でられて、震える手を握りしめて動けなくなる。
(え?普通??……なら、拒否するのが、変?)
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