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分からい。分からなかった。だって、俺は最初っから普通じゃない。
今だって、耳に響いている心音がバレないかという事で頭がいっぱいで、触れ合っている所が熱く熱を持つ。いつもの自分が作れない。
だって……だって仕方ないじゃないか。
俺は……男が好きで。
こんなの、絶世の美女と裸で抱きしめあってるようなもんだ!!好きでもない人間でも、無関心になんてなれない……身体だって……
意識すると、余計にその箇所に熱が集まる気がして、彼の方をまともに見れない。
「ん?……ああ。生理現象だろ。気にするな」
そう言って背中に顔を埋められる。
「な……何っ……」
「覚えてないのか?……ずっと話てただろ?……悪い。6時まで、あと少しねかせてくれ。」
「え……ちょっ……」
話してた?
少しも記憶がない。
最後の記憶は、シャンデリアの輝きとお酒の甘さ、笑い声……。
それでも、何故か、この温もりが心地よくて、腕の中から抜け出せない。この腕は、これまで何人の人を包み込んで、こんな幸せな気持ちにしてきたのだろうか……。
俺の腕とは違う……。
いくらビール瓶や樽を運べても、俺の腕はまだ誰も抱きしめたことはないし、誰も幸せに出来ていない……。
この温もりを……俺はよく知っている。両親を事故で早く無くしてしまったというのに、祖父母やその使用人。親代わりのように大切に育ててくれた叔父夫妻。
「優斗君の子供を抱きしめるまで、死ねないわねー。」
最後に胸に刺さった言葉が、声が鮮明におもいだされ、思わず目を瞑った。
誰にも打ち明けていないから、勝手に傷ついた傷だというのに、相変わらずヒリヒリと生臭く痛む。
自分の子供のように、愛や優しさをかき集めるように注いで貰って、暖かく優しい愛の中で育ったのが……どうして俺なんかなのだろう。
眉目秀麗と言われ、両親を失った事で人生の全ての不幸を使い切ったかのように、それからはずば抜けた運が俺の背中を押した。
道を歩けば、芸能界のスカウトマンの名刺を集める事になり、賛辞の声が孤独へと誘う。最後に俺の首を閉めたのは、社会人になりたての時に付き合いで買わされた、連番の宝くじだった。
祖父の時代からある酒屋の歴史は古くて、付き合いのある酒蔵のおじさん達と一緒に買わされた連番の宝くじは、見事7億円当選という奇跡を俺に押し付けて行ったのだ。
叔父さん夫婦がお金の管理を買って出てくれて、受け取り名義や責任まで背負ってくれたので、いくらでもお金を掠めとってくれて良かったのに、そんな事をする人たちでも無かった。
だから、会社や街の復興にお金を使えば使うほど、期待と羨望の眼差しに追いやられて崖の縁に立たされている気分になる。
もう、あとは……。
仕事をして、地味にひっそりと生きる人間になりたかった。結婚や子供の話に、小さく傷つくとしても、優しい人達の作る傷などたかが知れていると、愛を侮っていた。こんな風に酷く痛むことなど想像していなかった。
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