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「それがですね、少し前から姉妹店でボーイズバー出そうかって話が出てて。今日オーナーが来るんで、銘柄表と一緒に挨拶に来てくれませんか?うちとしては、三岳さんとこにお世話になりたいんですよ。」
「まじっすか。ハハ。菓子折り入りますかね?今日の何時頃ですか。」
「オーナーが来るのが10時くらいなんですけど、配達の後だと難しいかな?」
「分かりました。大丈夫ですよ。配達と別に10時からハピネスですね。その時間店空いてますよね?裏から入っていいですか?」
「あ。そうですね。裏からで。ありがとうございます。」
切れた受話器を戻していると、奥から恭平君が出てくる。
「なんすか?注文じゃない感じ?」
白紙の注文表に目を止めて、訪ねてくる。
「あー。また新規入りそうかも。」
「またっすか!?店長、これ以上広げたくないって言ってたじゃないですか。」
「まーなー。でもいざ言われると、あっちは良くて、こっちはダメって言えないんだよ。」
「来年、2号店できるんじゃないんすか?」
「悪い冗談はやめてくれよ。」
何とか冗談であってくれと笑うものの、恭平君の目は笑っていなかった。
「俺、奥で飯食ってくるわ。」
「はーい。店長、がんばっ。」
パイプ椅子に腰を下ろすと、ダンボールでケース買いしたお茶と弁当に向かう。
大学の近くに止まるキッチンカーで売られる弁当は、量も多くて安価なので、ついつい恭平君に買ってきてもらう。
「あ、煮物うま。」
久しく口にしていない煮物の味に、思わず頬が緩む。
「やっぱ、仕事してうまい飯食うのが、1番だよなー。」
店の方で電話の音が鳴り、恭平君の声が聞こえてくる。
「あとは、仕事がボチボチ程度に減ってくれたらなー。」
恭平君の元気な声からして、きっと大口の注文でも入ったのだろう。のんびりしてはいられないと、急いで弁当を掻き込んだ。
「あー。もう、ゆっくり食べてきていいのに。」
急いで店に戻ると、恭平君からブーイングが上がる。言い訳をすると長くなるから、笑って誤魔化して、カウンターの上の注文表に目を通した。
「俺、今日配達っすか?」
「どっちがいい??配達なら、3往復。店にいるならビール樽8本と炭酸5本くるよ。」
午後からは納品があるので、どちらにしても肉体労働だ。
「え。どっちも嫌っす。あーー。じゃあ、配達にします。」
「おっけー。なら、頼んだよ。」
ポケットの中こら社用車の鍵を手渡して、またケースに酒を集めていく。
「じゃ、行ってきます!」
元気のいい声で車に酒を積み始める恭平君を、つくづくありがたく感じていた。
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