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望まぬ出逢い
いつもは路駐して配達に行く場所で、キョロキョロと駐車場を探す。一本隣の路地だと言うのに、人が溢れて来た路地では、車道を当たり前の顔をして横切る人達で行く手を阻まれる。
ブレーキを踏んだり外したりしながら、よく使うパーキングにつくと、何とか車を停めて台車にケースを詰んだ。
ガラガラと派手な音を立てる台車を押しながら、歩いていると三岳酒屋を使ってくれている店のキャッチから、軽く挨拶を貰う。女の子の視線は冷たい。有難くその視線を受けながら、目的の場所にたどり着いた。
「あ。三岳さん!こっち!!」
裏口の少し前から、ハピネスの代表の琴根さんが声をかけられた。
「え。何ですか!そのお酒!!」
ガラガラと騒がしい音を立てる台車を見て驚いている。
「あー。他店に無い珍しい物も置きたいって言ってたから試供品です。味とか、飲み比べたいでしょ?」
「ちょ……いやいや。試供品って……これ。現品じゃないですか。うちの敷居に、合わせた酒って……これだけで幾らするんですか!」
ケースの上に無造作に置いていた商品説明と価格表を奪い取られる。
「あ。いや……花輪とかうちは出さないし……」
「いやいやいやいや。おいっ!お前らぼさっとすんなよ!!手貸せっ。運べ。」
琴根さんの指示で、数人のホストがケースを店内に運んでいく。
「とりあえず、中で話しましょう。」
三岳さんの元No.1ホストの顔を垣間見て、少し後ずさる。整った顔が威圧すると、普通の人の倍ほど恐ろしく感じる。
「ほら。早く。」
右の手首を促すように掴まれて、引かれると三岳さんの香水の香りに包まれる。
「ね?」
優しい顔で微笑まれた目は、少しも笑っていない。
(え。なんで……)
自分が何を失敗したのかも分からない。けれど、今までの酒屋の店長にする対応とはかけ離れた態度に狼狽しない訳がない。
振り解けそうにない右手に引き摺られるように裏口を括ると、いつも少し話をする時に使っていたスペースを通り過ぎて、音が騒がしい方へと連れていかれる。
「あのっ。ちょっと!琴根さん!?」
すれ違うホストからも、「は?何で?」という目線を浴びせられ、戦闘服であるダサい服が恐ろしい効果を発揮しているのだと俯いて身を縮めることしか出来ない。
扉は無いが明らかにここからが店内だと分かる入口を抜けると、店内の光と影のコントラストに目がチカチカする。シャンデリアから降り注ぐ光が壁や床に反射して、眩しく感じてしまうのに、ソファーや衝立ての作りがシックな革張りになっていて、落ち着いた雰囲気もある。人の声が溢れているのに、各スペースを覗いてはいけないような人の距離に、何処を歩いているのか分からなくなった。
「さぁ、ここで待ってて。すぐ、オーナー来るから。仕事終わりでしょ?接客付けるから、飲んで待っててよ。」
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