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「頼んでいいけど、絶対コールとかしないって約束して。」
「えーーーーーーーーー。モエシャンなのに!モエシャンで!ありえなく無い?」
「しないって約束しないと駄目だから!」
必死のお願いが聞いたのか、仕方なさそうにボーイから酒を受け取り、静かに酒を並べていく。
(……ま。開店祝いと思おう。)
「じゃ、俺たちの出会いに〜」
まるで女の子に言うような台詞に苦笑しながら、グラスを合わせた。
「じゃー、三岳さん。イケイケ上昇中のホスト、トシ君に何か話したい事はございますかぁー?」
ニッコリと満面の笑みで聞かれて、ぐふっと酒を噎せ返す。
「大丈夫?」
「えっ……何っ。わか……な……」
「だょーね。だよねー。三岳さん、お喋りっぽく無いもんね。オッケー。オッケー。落ち着いてー。」
明らかに年下のトシ君に背中を撫でられて、ちょっと情けなくなる。
「じゃー、聞きたい事とか?どぉ??」
「それなら……。普段はどんなお酒が好きか教えて欲しい。好きな飲み方とか……」
「さすが、酒屋。」
笑いながら、少し声を落として耳元に近寄ってくる。
「俺、普通にストロング缶が1番好き。」
目を見開く俺に、ニッコリ微笑みながらグラスを空にしてみせる。やっぱり営業トークだったんだと感心して、思わず笑ってしまった。
「じゃー、アイスボックスに入れるの?」
「そんな飲み方しない。しない。薄まるじゃん。」
「え。じゃあ、コップとかにも拘る?」
「まーねー。ここで飲む時は、途中から味わからなくなるから。」
コロコロと変わる表情や、楽しそうに笑う声はにつられて、気がつけば普通に会話が出来ていてる事に、口を付けるだけだったグラスが空いてしまった時に初めて気がついた。
(……っすごい、俺口下手なのに。)
「……へえ。随分楽しそうだな。」
よく響く低い声に、店の中の空気が揺れる。
(……え。誰?)
笑い声が溢れていた店内で、誰もが声の方を振り返り、話を止めていた。
(あ……。楽しんでた人全員が、自分に言われたと思ったんだ……)
全員の目が自分に向くことを当然と言わんばかりに一瞥し、少し目を細めた仕草が笑ったようにも見える。
ぞくっと背筋が震えるほどの迫力を背負った男は、四方から寄せられる視線を気にもせずゆっくりと歩き出す。
日本人離れした鼻筋や目の堀。外人を思わせる体格に、艶やかな黒髪がカーブを描きながら右目を隠していた。きっとその全てが色気に繋がって、人間離れした顔立ちが一層、人間臭い人の劣等感を刺激してくるのだろう。
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