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すぐ隣を歩く琴根さんの姿を見て、少し気になっていた事も腑に落ちた。琴根さんは精神的に大人びていて、落ち着いた人柄だと言うのに、サイドとバックを大きく刈り上げた髪の上に、光を反射すると白く見えるほど明るい金髪をしている。もちろん似合っていたから、僅かな違和感も忘れていたのに、2人並んだ姿を見て急速に理解する。
金髪と黒髪と。どちらもお互いの存在を引き立て合うように、それぞれの美しさを際立出てて見える。
「ここのオーナーの佳史だ。今日は悪いな。」
「……あっ。三岳です。三岳酒店の代表できました。あのっ、新店舗。おめでとうございます。」
深深と頭を下げると、静かな空気にクスクスと高い笑い声が聞こえる。
「何あいつー。何であんなのがVIPにいるのーっ。」
「佳史様の傍に近寄らないでよっ。」
正義面した悪意にビクリと肩を震わせていると、その肩に手を置かれ、そのまま促されるように一緒にソファーに座らされた。
(あれ?そこにいた……トシ君は?)
気がつけば、隣にオーナーこと佳史さん、向かい側に琴根さんが座り、少し離れた1つ席にトシ君が移動していた。
(確か、あの席ってお酒を作る席だっけ。)
「佳史さんも飲まれるなら、俺のヘネシー持ってきて。」
あれだけフレンリーだったトシ君が、微笑みながら「はい。」と答えて静かに席を立つ姿に戸惑う。
「三岳さん。目を離した隙に、カフェパリにモエまで入れてもらって……すみません。半分店が持ちますから。」
そんな琴根さんの提案に、慌てて首を降った。確かに「7カケ」と言われる値段には驚いたが、ここで頷けば確実に削られるのはトシ君の売り上げだろう。
「いいですっ。さっきも言いましたけど……酒屋からはお祝いとかしないので。その分という事で。」
「……へぇ。」
すぐ隣で聞こえた、低い声に、今度はぞくんっと全身がの鳥肌がたった。
(……声っ)
ドキンドキンっと、聞こえてしまいそうな自分の心臓に泣きそうになる。懐かしい、もう二度と味わいたくなかった感情がドロリ胸に広がり始めた。
……女の子だったら良かったのに。
そうすれば、今ここで顔を赤らめていても、爆発しそうな心臓が彼に聞こえたとしても、構わなかった。
同姓が好き。たった、そのひとつのことで、こういう時に正しい反応が出来ていないのではないかとい不安で頭がいっぱいになる。誰にも気取られないように、溢れてくる生唾を手元のお酒で無理矢理飲み込んだ。
だから……だから……。
空になったグラスをテーブルに置いた左手に、冷たい指が触れた。左手を掴まれて、彼の眼下に寄せられ、親指で薬指の金属をなぞる。
「何で、童貞が結婚指輪とかしてるの?」
…………もう、無理。
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