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「……っち……かぅ」
思わず立ち上がろうとした腕を掴まれ、強く引かれて動けなくなる。少し浮いた臀部も痛いくらいにソファーに押し付けられて、掴まれた手の方を睨みつける。
「……離せ。」
「悪い。俺が悪かった。もう、いじらない。な?仕事の話だろ?」
少しも悪いと思っていないと思うけれど、周りを見れば何も起きていないように振る舞われて、何も言えない。静かに息を吐いて、何とか頷いた。
「おまたせしましたー。」
ニコニコと笑顔で戻ってきたトシ君がお酒を作って、琴根さんと佳史さんの前に置く。諦めたように項垂れた俺を無視して、「かんぱーい!」と何かが開催されてしまった。
さっきのは何だったのか。グルグルとリピートされる音声にオーバーヒートしそうで、救いを求めるように甘い水に手を伸ばして、話さないですむように何度も口をつける。
当たり前のように腰に回された腕を、チラチラ見て抗議するものの、誰ひとり突っ込んでくれない。むしろ、お客さん扱いされているなら、女扱いされていて普通で、これが通常の接客姿勢で、気にしてる俺がだめな気さへしてくる。
「あー。三岳さん、いける口っすね!じゃー、俺ともっかい乾杯しよー!」
同じペースで空になったトシ君に促されて、よく分からないまま何度目かの乾杯をする。確実にテンパっていた俺を思ってか、頷くだけで返答できる会話に安心して、新店舗の店構えや客層、酒の趣向に耳を傾けていた。
琴根さんからヘネシーの金キャプのグリーンボトルの数を揃えられた事に感謝され、ボトルを入れないかと聞かれた時も、頷くままにしていたら、いつの間にか飲み物がウイスキーに変わっていた。いつもは口にしないウイスキーの香りに、少し酔ったという自覚は無いものの、いろいろな事が気にならなくなっていく。
キラキラしなシャンデリアの灯りも「綺麗だな」と感じるし、佳史さんが腕を寄せたので、肩にもたれかかる事になったのも単純に楽だ。
「三岳さんの所は、どうしてあんなに安価でお酒を下ろしてくれるんですか?」
いつものようにニコニコと微笑まれ、琴根さんの方を見る。
(……どうして?)
今まで頷くだけで成立していた会話に、「話す」事を求められてモタモタとしてしまう。
「えっと、たくさん注文してくれるので……?」
煩わしいとおもったのが伝わったたのか、今度はまた簡単な質問にしてくれた。
「それだけです?」
こくんと頷くと、少し困ったように笑われる。
「安すぎですよ。利益は取れるんですか?」
「利益…ちゃんと……ありますよ。」
整った顔が3つ、こっちを覗き込むのが可笑しくて、クスクスと笑ってしまう。
(だって……そんなにたくさん無くてもやっていけるし……)
「ほかの店と企んでるわけでも無さそうですね。」
琴根さんの検討違いの台詞に驚いてしまう。
(そんな事……しないですよ。)
「貴重なお酒を数揃えられるのは、どうして?」
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