僕の心のすべて3(続編:ふたりの家族)

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うさぎさん うさぎさん 前世で 僕の初恋…… とても大好きなお母さん この世界に 産んでくれてありがとう 僕は 初恋のうさぎさんと 前世で兄だった 猫との間に新たに誕生した ルビィ色の左目を持った子猫 前世で最初は見えなかった両目 日記と交換に 母から貰ったルビィ色の左目 その代わり あげた心臓…… 僕のいない世界で愛し合ったふたり それは哀しくもあり 嬉しくもあった 「ニャウー!」 病院の5階から 中庭にいる僕に手をふる母 僕の名は ニャウ 猫と兎の間の子だから 混ぜた名らしい 「んー? 診察、終わったー?」 「そうよー! 帰るから、そこで待っててね」 前世と今では大きな違いがふたつある それは 両目をもって産まれたこと 前世で血の繋がらなかった母と 血縁になったこと (大好きな人と、離れない縁……) 望んでいたものとは違うけど 傍にいられるから幸せだ 「待った?」 いつの間にか傍にいた母に驚く 「待ってないよ。考え事」 「そ? 帰りましょ」 病院を出ると フッと俯いた母 僕が首を傾げて見せると すぐに笑顔 「あの人、まだ仕事だし、今日は車じゃなくて、公園の中を通って帰りましょ」 僕がなにより嬉しいのは 母と堂々と手を繋いで帰れること 「お母さん、今日は何だってー? せんせ」 目を合わせる僕 少し視線を外した母 「……んー、言いずらいんだけど」 「?」 「ふたりめ……の赤ちゃんだって」 「……」 なぜだろう お祝いしなきゃいけないのに ズキンと胸が痛んだ 「でもね」 「……うん」 それに 母もあまり嬉しそうじゃない 「どちらがいいかわからないの」 「どういうこと……?」 口をキュッと結ぶと ルビィ色の右目を震わせる母 「産んだら、命がないかもって」 それなら欲しくない それが 僕の意見だった 「母さんの命と新しい命、僕なら即答だよ!」 「……でもね、この子には罪なんて」 「駄目だよ! もう離れたくない……!」 「ニャウ……」 母は ほっとしたような…… 傷ついたような顔 でも もう失くしたくなかった 大切な人との時間が終わるのが ほんと嫌だったから 「僕は母さんとまた逢えて嬉しかったんだ。その気持ちも……」 「……ごめんね、ニャウ」 それきり気まずくて喋れなくなった 僕ら 神木の根元から地下の家へ そこには仕事中のはずの父がいた 「大丈夫か?」 「……ええ」 「ニャウに話したのか?」 「そう……」 産むのは母だ だから 最終選択肢は母にある 血の繋がった新しい命…… いつの間に宿ったのか 悔しくてたまらない 「僕が好きだって、わかってる癖に!」 我慢出来ずに 僕は家を飛び出した すぐに追いかけてくれると思った だけど よく考えれば 命を宿している母が走るわけもなく 母を置いて 父が来るわけないとも思った 「なんだよ……」 (僕は、またひとり……) ひとりなんだ そう思うと 両目が熱くなって 空を見上げると 晴天だった そんな些細なことでさえ敵みたいに思えて哀しかった 「ニャウー!」 僕を呼んでいるのは 母だった (追いかけてきたの……?) 命を抱えているのに…… 僕は自分が嫌で嫌で 公園でひとり 泣き出した いつの間にか 後ろから抱きしめられて それが母だと気づいたとき 僕と母の間にある命のことを思い出した 「……なんで僕を」 「愛してるからよ」 その言葉は 前世で欲しかった 「嘘つき」 「……嘘じゃない」 母が震えていて ハッとする どうして大事なのに 僕は傷つけているのかと 「ごめん、母さん」 ううんと首を振る 母の左目には 瞳がない 僕は貰ってばっかりだ 瞳も愛も優しさも なのに母を傷つけてはいけないんだ…… それが愛情の裏返しでも 「私ね」 その続きは聞けなかった 後ろに引っ張られた母の代わりに 父が僕を殴り倒したから 「お前は命の尊さを知らない!」 その時 口の端を少し切ってしまって 僕は無意識に それをぬぐった 「やめて」 母がその場で崩れ落ちて 僕も父も我に返る 「私達、家族でしょう?」 僕は哀しかった 家族という言葉に囚われることが だけど それ以上に 母を愛していた 大事だった 「どうしてふたりは……」 (どうして、ふたりめなんて作ったんだ) それは言えなかった 父に手首を掴まれ引っ張られる 僕はうなだれながら家に そして 父に言われた 「哀しませるんじゃない。お前は二度も」 「二度……?」 その様子を見ていた母が口をはさむ 「あなたが産まれて、私……ほんとに嬉しかったのよ」 「でも……」 「どうして、ふたりめを作ったのかわからないのね? ニャウ」 「……うん」 すると父がポリポリと頬をかき 「それはすまないとも思ってる。だが、お前の為だ」 (僕の為……?) 「僕は嬉しくなんか!」 母は優しい顔で言った 「ニャウはどこか、私達との間に線を作ってる。そう思ったの」 「線って……」 「だから、ニャウにも、なんでも話せる、かけがえのない家族をと思ったのよ」 ふたりめを作ったのは ふたりが愛し合っているからじゃない 僕の為だった 「言ってくれたら!」 ごめんねと言って フラフラと母がよろける それを支えようとしたら 父がサッと間に入った 「私も彼も、あなたをとても愛しているのよ……」 僕は 父が嫌いだ 僕と母の間に入る 僕が母にしてあげたかったことをする 僕から 愛を奪っていく 「……っ」 辛いって言いたかった でも言えなかった…… 母がなにか父に小声で言って それすらも悔しかった 父を押しのけると 母は僕の手を握りしめた 僕は 前世で叶えられなかったことがありすぎて 悔しくて哀しくて…… だけど 母の愛情を疑っちゃいけないのかもしれない こんなにも愛してくれているのに 「母さん、父さん」 もう ふたりを哀しませてはいけないんだ 「ん……」 「ああ」 頷く母 しっかりと僕を見据える父 「僕は、ただ母さんが大好きなんだ」 「わかってる……」 僕は産まれた 母の中から 母と父が愛し合って だから新しい命に罪がある筈がない ふたりが僕の為に 家族になる為にしてくれたこと 「だけど、もう」 「……言っていい。なんでも話して! ニャウ」 わがままはもう言わないって言おうとしたのに 母さんがそれを止める 母は 罪を感じているのだろうか? 僕を孤独にしたことを 「あなたは私の宝物。だけど、その前になんだって話せる家族にもなりたい!」 「僕は、どうすれば……」 そんな僕を 父は静観している 「お前の為に、いなくなることも考えた。だが、もうこの関係は変わらない。親子という絆はけして断ち切れない。だったら、ふたりで考えようと思った。それが、いけなかったんだ」 「……父さん」 僕は 父が嫌いだった でも 兄さんだった頃の父は尊敬していた 思い出そう 僕は間違えちゃいけない 「3人で……4人で考えていこう。お前は、前世も今も、かけがえのない存在だから」 それから僕達の関係は好転していった。 僕は母のことばかりじゃなく 前世の兄も愛していたことを思い出せたんだ 「可愛い赤ちゃんでしょう?」 父と僕は あれから母を支え続けた 母は結局 赤ちゃんを産むことを決意し 無事産むことが出来た そして聞かせてくれたんだ 「ニャウの時も危なかったんだって。でもね、あなたが、愛してた子猫さんになることを知って、頑張ったの」 「!?」 「愛してるから……。ずっと言えなかったけど、言いたかったけど」 「……十分だよ」 産まれてきた赤ちゃんは兎の女の子だった 父でも母でもなく 僕の手を握って笑った 僕は思った (僕を必要としてくれる家族が出来たんだ) 誰より何より 愛していこう end
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