お嬢さまの意志

1/1
8人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

お嬢さまの意志

 生まれ持った美貌に驕らず常に美しさを向上させるためのケアを施し、勉学では毎日の予習復習を怠らないどころか求められる以上に励み、常に最高のパフォーマンスで事に当たれるよう綿密な健康管理と適度な運動を一日足りとも欠かしていない。  それも全て、父の会社を引き継ぐため。  男女平等が当たり前なこの社会において、未だに父は「女は外に出ず家を守る」という、封建社会的な思想を持っている。表向きは巧妙に隠しているが、家族や秘書、部下といった身近な者たちには臆面もなく自らの主張を振りかざしている。  その主張の下、娘であるいばらは大学卒業後に某上場企業社長の嫡男の下へ嫁がされるという話が出ている。数年前に姉が、某政治家の嫡男の下へ嫁がされたように。  姉は良くも悪くもお人好しな性格で、父にとても従順だ。故に、物心のついたころから常に自分を押し殺していて、それが当たり前になっている。  そして今も、互いの家のために都合の良い妻を演じ続けるという父が用意した道を、何の疑問も抱かず歩み続けているのである。  このまま何もしなかったら、いばらも父の人生設計通りの道を歩まされる。  そんな人形のような人生など、冗談じゃない。真っ平御免だ。  偉大な功績を残してきた父の実力は尊敬しているけど、人間としては嫌悪すら抱いている。そんな父の人生設計から抜け出すには、自らが父に次いで社長になる他ないのだ。  幸い、次期社長と称される兄は凡才かつ優柔不断だ。長男だから次期社長という地位を与えられたに過ぎない。兄には悪いが、力と人脈を蓄え、然るべき時を迎えたら、その地位から容赦なく引きずり下ろす。  確固たる意志を持つ彼女の生活は、順風満帆という他なかった。  ある一点を除けば。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!