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ぎゅっと目を瞑り、痛みに備える――。
「やめて!」
だが、頬を痛みが襲うことはなかった。聞こえた声に引き付けられるよう、ハッと目を開く。
そこには、女子の手を掴んで止めるキノコがいた。
「キノ……」
「何も知らないのにこういうことしないで!」
聞いた事もない大声に、一同全員硬直する。周囲には焦りが広がり、手を掴まれた女子なんかはかなり気まずそうだ。
俺はと言うと、脳内真っ白だった。
「そもそも君たちがこういうことをする必要はないでしょ! ちゃんと言わなかった俺が悪いんだから勝手に酷いことしないで!」
心が震える。まさか、キノコの怒りが、自分自身ではなく他人の――俺の為に発動すると思っていなかった。
気付けば、勝手に涙が零れていた。女子もいる手前、泣きたくはないが無理だった。
「ヴッ……」
思わず漏れた嗚咽で、一同の注意が動く。
「なんだよー、怒れるじゃんかー……」
キノコは素早く屈むと、ハンカチを差し出してくれた。受け取って、ゴシゴシと拭う。
「ごめんね。ちゃんとやめてって言ってれば良かったね。俺、怒らせようとしてやってるの知ってたよ。でも、色々考えてたら、どうしたらいいか分かんなくなっちゃって……本当にごめん」
相変わらず、キノコは自分ばかりが謝る。何の罪もないのに、怒らず許してくれる。
「謝るのは俺の方だろバカ、本当にたくさんすみませんでした……」
誠心誠意の土下座で、キノコにひれ伏した。酷く困惑する様子が見なくとも分かる。もういいよ、大丈夫、怒ってないよ、と必死な声を聞きながらも俺は土下座を続けた。
「はい、めでたしめでたし」
静かで、けれどもよく通る声が、突然場に入ってくる。それはミカの声だった。
訳も分からず顔を上げると、女子の開けた道を歩いてくるミカが見えた。
表情から察するに、どうやらキノコも状況が分かっていないらしい。
ミカはと言うと、こちらに近付きながらも、『大役お疲れ様』『私たち、本当に焦ったんだからね!』なんて会話を女子たちとしている。
まるで、全てを知っていたかのように。
「……え? えぇ?」
「良かったなハチ。キノコの怒るところ見れて」
「こ、これ、もしかしてミカが全部仕組んでたの? 水かけるやつも?」
ミカを含めた周囲を見渡すと、女子たちが皆、うんうんと頷いていた。どうやら、これは本当に全てミカの企てだったらしい。
「え、じゃああのビンタはどうなる予定だったの? キノコが止めてくれなかったらもしかして……」
「ぶちあたってたな」
「怖ぇえー!」
「はい、じゃあ改めて皆お疲れさま。キノコ、彼女たちにお礼考えといてな」
「あ、うん」
あっさりと纏め上げられ、頭がついていかない。ただ、全部終わったことだけは確かに分かった。
ふと、今までの行動が走馬灯の如く頭をぐるんぐるんと回り始める。
そうして気付いた。
「俺の計画って一体なんだったのー!?」
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