孤独な正義

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 大きな男だった。見上げないと顔が見えない。男は、廊下に落ちたガムの包み紙を拾い上げると、「はい」と言って捨てた本人に差し出した。 「いるかよ、馬鹿」  行こうぜ、と二人が去っていく。ゴミを受け取らずに行ってしまった。「待て」と呼び止めようとする僕を、男が止めた。 「ああいう人っているよね」  笑って、手のひらでゴミを丸める。 「腹が立たないの?」 「まあ、いつかあの人にもわかるときが来るといいなと思うよ」  なんだそれは。大学生になってゴミをゴミ箱に捨てられない奴が、いつか改心するとでも思っているらしい。気の長い話だ。 「わかるときなんて来ないよ」 「うん、そうかも。こういうのって、親の背中なのかな」  のほほんとした口調でそう言うと、思いついたように付け足した。 「あの人に、すごく好きな人ができて」 「……はあ?」 「その相手に注意されたら、もしかして悪いことだって気づくかもね」  去っていった二人の背中を見ながら微笑む男は、その日から、僕の友人になった。  同じ学年で、同じ学部の倉知七世という男は、変わった奴だった。  どこが変わっているか。  僕に話しかけ友人になろうとするのだから、相当変わっている。
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