孤独な正義

6/12
前へ
/1476ページ
次へ
 散々、惚気られてきたが、いつ、どうやって知り合ったのか、言わなかった。多分、意図的に。同性だと気づかれるようなことを、極力言わないようにしていたのかもしれない。僕のほうから詳細を問いただすことはないと、高をくくっていたのだ。 「高二の、ときから」 「十歳上の社会人が、高校生に手を出したってことか」  倉知がハッとした顔で何か言い訳をしようとしたが、唇を噛んで、やめた。 「どうして男の人と付き合ってるの?」 「どうしてって」 「倉知って、ゲイ?」 「違うと思うけど、……わからない。俺、加賀さんが初恋だし」 「じゃああの人がゲイ?」 「それはないよ。過去に付き合ってきたの、全部女の人だし」  倉知が目を伏せる。 「どっちにしろ同性と付き合うなんてハイリスクだよ。同性愛自体、否定はしないけど、倉知は教師を目指してるだろ?」  指摘すると、表情がかげった。 「ばれたらどうするの? それとも、隠さないで堂々と公表する? ただで済むと思う?」  しおれた花のように、首を曲げてしょんぼりする倉知を見ていると、胸が痛んだ。  でも、僕が言わなければ。あとになって職を失いかねない。つらい思いを、させたくない。
/1476ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1350人が本棚に入れています
本棚に追加