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散々、惚気られてきたが、いつ、どうやって知り合ったのか、言わなかった。多分、意図的に。同性だと気づかれるようなことを、極力言わないようにしていたのかもしれない。僕のほうから詳細を問いただすことはないと、高をくくっていたのだ。
「高二の、ときから」
「十歳上の社会人が、高校生に手を出したってことか」
倉知がハッとした顔で何か言い訳をしようとしたが、唇を噛んで、やめた。
「どうして男の人と付き合ってるの?」
「どうしてって」
「倉知って、ゲイ?」
「違うと思うけど、……わからない。俺、加賀さんが初恋だし」
「じゃああの人がゲイ?」
「それはないよ。過去に付き合ってきたの、全部女の人だし」
倉知が目を伏せる。
「どっちにしろ同性と付き合うなんてハイリスクだよ。同性愛自体、否定はしないけど、倉知は教師を目指してるだろ?」
指摘すると、表情がかげった。
「ばれたらどうするの? それとも、隠さないで堂々と公表する? ただで済むと思う?」
しおれた花のように、首を曲げてしょんぼりする倉知を見ていると、胸が痛んだ。
でも、僕が言わなければ。あとになって職を失いかねない。つらい思いを、させたくない。
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