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もう何も見たくない。こんなにも大好きなのにとやけくそになった途端零れていた。
「もういいよ…」
「え?」
腑抜けた顔で聞き返した彼は泣いていた。綺麗な涙だった。だけど嘆くような色に見えた。
その時初めて彼と交わったのだ。瞳の奥深くに眠ってしまった本当の彼と。
同じ空の下流した涙だけが交差した。
例えその涙の意味や濁りは違えど、初めて繋がれた気がしたのだ。
「苦しいよ…」
本当に苦しい。
もう投げ出してしまいたい。
そんな一心で出した言葉だった。
「そんな〇〇を見るのはもう嫌だよ…」
止まらず続ける。そこで気づいた。
嫉妬心などもうないことに。
嫉妬心以上の苦しさを抱えていたことに。
「━━あの子はもう、居ないんだよ」
「…」
「3年前に死んだの」
私が苦しかったのは、故人にとらわれ続ける想い人を見続ける事だった。屈託のない笑顔の裏に隠された秘密だった。紛れまなくあの子は3年前に死んでいた。それでも故人を愛す彼は真っ直ぐで純情で一途だった。
そんな完璧な彼が、あの子の死によって狂ってしまった。幻覚まで見る程になっていた。
あの子の死が彼をこうした、私はその子を許せない。想い人を骨抜きにしたその子を。嫉妬心として思い続けていた感情は、彼の表情を見る苦痛さと混濁して自分でも分からなくなっていた。
そんな骨抜きにされた彼を見ていられなかったんだ。辛かった。彼は二度と私を見られなくなったとあの子の死で悟った。永遠にあの子の虜だと。彼はあの子を忘れられない。
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