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「今僕がここにいるのはきっとあの子のお陰なんだ」と彼は清々しいまでに言い切った。
その瞳は陰などなく、濁りを知らなかった。
そよ風が彼の頬をかすめ、髪をさらった。それすらも彼の魅力に思えた。
「そうなんだ」とまるで知らなかったと言わんばかりに返した私の心には醜いものが芽生えていた。嫉妬心だ。
この時から交わるはずなかったんだ。
嫉妬心を消そうと努力した。考えずにいたかった。私は彼にとって良き友人でいたかった。それで良かったんだ。それ以上を求める己を戒めた。
だけれどそれ以上に醜い心が呑み込んだ。どうにかして認めて欲しかった。自分もいると。伝えたかった。自分の存在を。
だけど、彼の瞳の奥と目が合うことは無かった。彼は「あの子」の存在を肯定し続ける。全てはあの子が変えてくれたと。それを否定するのが怖くて言えなかった。そうして関係を壊しくなかった。そうすることで笑う彼の顔を歪ませたくはなかった。醜い、本当に醜い己が出来上がる程に、彼は一切の濁りを見せないくらい後腐れなく笑うのだ。
自分にないその笑顔が好きだった。
自分には作り出せないその笑顔が欲しかった。神は平等に試練を与えると言うけれど、きっとそうじゃないとその笑顔の前では思わずにはいられない。
もういいよ。疲れたよ。やめてよ。
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