2人が本棚に入れています
本棚に追加
僕と花乃。
君とは違う、僕。
同じ中学だけど違うクラス。同じ市内だけど違う町内。同じ委員会だけど、違う役職。
君と僕はすれ違う。これでもかというほどに、「違い」がある。僕と君の距離も、近づきそうで近づかない。
けれど。
僕は君のことをよく知っている。
それは、ひとつだけの共通点があるからだ。
同じ病院に通っている、同じ病気に罹っている、同じ主治医の先生、入退院を繰り返す同じ人生。
僕たちは、同志だ。
けれど、そう思っているのは僕だけで、そこにも相違があるのかな。
あの夏。
桃を剥きながら、君は「無理してでも生きたいとは思わない」と言った。
甘い香りが、否が応でも鼻の奥へと入ってくる。
君が剥いてくれた一切れの桃が、僕の舌の上でとろけて、そして甘い香りとともに消えていったのを、今でも思い出す。
✳︎✳︎✳︎
「……同じ高校だね」
僕がそう言うと、花乃は指でくるくるといじっていた髪をそのままに、不思議そうに僕を見た。
「確かに圭(けい)くんとは同じ高校だけど、また中学みたいに違うクラスばっかかもよー」
悪戯っこのようにニヤリと笑うと、花乃は頬づえをついて、僕を見た。
高校入学前の春休み。春休みの、学生たちの喧騒の中の、ハンバーガーショップ。
「……もしそうでも、同じ学校の敷地内にいるんだからいい」
女々しい言葉はいつも僕の口からだ。
「…………」
花乃はエビバーガーのふちを指で食べやすいように潰すと、ネズミのように齧っていった。
花乃がいつまで経っても何も言わないので、僕は痺れを切らして、嫌味のような言い方をした。
「……そんな食べ方して美味しいの?」
「別にこんなもの、美味しいもくそもない」
出た。
花乃はムカつくと、途端に口が悪くなる。
これ以上うるさく言うと、こっちのテリヤキバーガーの味までくそみたいな味になるので、僕は次に言おうと思っていた言葉を、冷えたシェイクで喉に流し込んだ。
✳︎✳︎✳︎
「先生、私たち。いつまで生きられる?」
花乃は容赦ないという言い方で、すっぱりと訊いた。
ベッドは直角とまでいかないけれど背もたれがくの字に曲げられていて、その上で横になっている花乃は目を見開いていた。
僕は花乃の横に置いたイスに座っていて、スマホから伸びているイヤホンを耳から外したばっかりだった。
(「私たち」?)
最初のコメントを投稿しよう!